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“あなたはどんな風に泣くの”

オンラインのプロフィールでもオフラインで自己紹介するときにも、
「アニメとか漫画が好きです」「オタクです」と伝えるようにしていて、
この1年くらいではそのあたりのお仕事なんかもちょこちょこいただけるようになってきた。

母親も漫画やアニメが大好きで、わたしがそれらに親しむことに眉をひそめたりしなかったし、「ベルサイユのばら」を読むよう勧めてきたのは彼女だし、わたしが同人活動をしていたときにはコピー誌をつくるために深夜のコンビニへ行くのについてきてくれたりもした。
物心ついたときから漫画とアニメが大好きで、それなしには自分の人生を語ることはできないと思っている。

けど、わたしは、漫画やアニメで泣いたことがほとんどない。
もっと言うと、漫画やアニメに救われたことがない。

「アニメ好き」なんかで有名なクリエイターや芸能人のインタビューには必ず「人生を変えた作品」のような、彼や彼女の人生に大きく影響した作品の名が挙がっている。
わたしにももちろんそういう作品はいくつも(本当にいくつも)あるが、例えば「〇〇を読んで泣いた」とか「〇〇というキャラクターの台詞に救われた」とか、そういう経験がほとんどない。

わたしはただ、漫画やアニメが大好きなだけだな。

それに気づいたのは、とあるアニメ・漫画関連のイベントで参加条件が「アニメに救われたことがあるひとならだれでもOK!」みたいな文言を見たときだった。
漫画やアニメに救われた経験? そんなのないよ。咄嗟に思った。

きっとこの「条件」というのは「アニメ好きなら誰でもOK(そういう人なら救われた経験あるよね!)」くらいの軽い意味だったに違いないのだけど、それからというもの、思った以上に「アニメ(漫画)に救われた経験をもつ人」が多いことに目が向き始めた。
「どん底だったとき、不登校だったとき、いじめられてたとき、そばにあったのが漫画だったんです」みたいな文脈で語られるそれらを見て、自分にはそういう経験がないな…といつも感じるようになった。

『フルーツバスケット』を読んで「いい言い回しだな」「高屋先生は例え話の天才だな」と思ったことは数知れないし、今リメイク放送されている同作のアニメを見ても「やっぱりいいな…」としみじみ思う。
ただ、この作品も「好きな作品」のひとつで、救われた! と感じることはない。

厳密にいうと泣かされた漫画やアニメはある。けどそれは登場人物に感情移入しまくった結果であって(直近だと「進撃の巨人」でエルヴィンが死んだときなんかはそれだった)、例えばキャラの台詞が自分の現状に酷似していたとか、自分の境遇と似たキャラクターの頑張る姿に感動して……というふうに、自分に投影して涙したことは一度もないと言い切れてしまう。

(ちなみにわたしが泣いたことのある作品は以下のとおりで、「なぜそこ?」と言われることも多い)

・『ONE PIECE』 チョッパーがくれはの弟子にしてもらうため吹雪の中でヒルルクの旗を振り続けるシーン
・『暗殺教室』 殺せんせーの最期のシーン
・「けいおん!!」 「天使にふれたよ!」の演奏シーン
・「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」 親子もの、家族ものエピソードのクライマックスシーン

どちらが偉いとかすごいとかそんなことは思わないけど、なんとなくわたしはアニメや漫画というコンテンツの「いち消費者」でしかないような意識がずっとあって、「人の心を動かす作品をつくりたい」と思って創作に取り組んでいるクリエイターの人たちには本当に申し訳ないと思う。

大学の頃に二葉亭四迷の「小説総論」という評論を読んだことがあって、小説というものは「形(形式)」と「意(内容)」からなるものだと学んだことがある。本当はもっと複雑な話だった気もするけど、大筋はそういう話だった。
これはあらゆるフィクションに還元できる気がしていて、例えば漫画は「絵」と「ストーリー」だろうし、アニメも「絵」と「ストーリー」だと思う(そこに音とかも加わって、もう少し複雑かも)。
四迷先生は「どっちかっていうと意(アイデア・何を書くか)が大事だと思うわ」と言っていたが、読んだ当時からわたしは「いや、形(スタイル・どう書くか)のほうがやりようがいろいろあって楽しいわ」と思っていた。
そういえば漫画やアニメに触れるときもまず「絵が好きかどうか」から入るし、どんなに人気でも絵が受け付けないと進まないし、面白さを感じる前に心が折れる。

そんな風に漫画やアニメを摂取してきたから、今でもまずはタイトルで録画予約をするし、絵が綺麗なら見る、好みじゃなければ見ない。

感性が豊かで、「映画や漫画でよく泣いてしまう」という人に話を聞いてみたい気もする。彼ら・彼女らはどんな風にフィクションを摂取して、涙するのか知りたい。


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