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パリ 25ans decembre

KLMオランダ航空の日本行きチケットを買った。
クリスマス休暇は値段が高いから、15日発パリからアムステルダム経由で日本に向かう。
ほとんどの荷物は帰国売りに出すか、段ボールに詰めて日本に送った。友達にオーブンを30ユーロで買ってもらい、食器や日本の調味料を譲った。部屋にはもともとあったベッドとテーブルとイスだけになった。

ユアンと待ち合わせをして、レアールでたまたまやっていた映画を見てから、近くのイタリアンレストランで食事をした。もうすぐ会えなくなると思うと、会話も少なかった。ピザを半分こして、デザートにティラミスとイルフロッタントを頼んだ。
「日本でさ、安い映画のDVDとかディスクがあったら買っておいてくれないかな、お金は渡すから。」
「どういうのがいいの?」「日本の映画だったらなんでも、トトロとかナウシカとか、ゲームでもいいよ」「おたくだねえ」
 カスタードに浮いたメレンゲが崩れないように、二人で交互にスプーンですくいながらくすくす笑った。食べ終えると私はカバンから包みを出した。
「これ、ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント」「何?」「マフラー」「一人で寒くて風邪ひくといけないから」「ありがとう」
 そういってテーブル越しにキスをした。彼は切なそうな顔をして、テーブルの上で握った手を離さなかった。
「いつ戻ってくるの?」「たぶん来年春くらい、ワーキングホリデーのビザが取れたら。」「来年の春か・・・」

 ちょっとトイレに行ってくるとユアンは店の地下へ降りて行った。
「あなたはどこから来たの?」カウンターのお客と話していた、店のマダムがお皿を片付けながら話しかけてきた。
「日本です。」「パリに住んでいたの?」「はい」
「でももう帰るのね。パリは好き?」「はい、とても」
「帰るところのある人は、皆そういうんだ。」カウンターの男性がそう言って、マダムはかすれた声で笑った。
「そうね。ここにしかいられない人間は、色々あるから。」
「いつ日本に帰るの?」「来週です」
「Bon voyage.」
 ありがとう、というと、ユアンが戻ってきた。

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