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パリ 25ans Eclipse

11 aout, 11am
サンクルー公園は、ピクニックしている人や、近くのオフィスからスーツ姿のまま、例の日蝕用メガネで空を見上げている人がいた。
数十キロ先のベルサイユ宮殿にも続いているというサンクルー公園には、ルノートル設計の立派な彫刻の噴水や滝があり、革命で焼失したナポレオン三世の宮殿跡は、小高い丘になっているので、パリ市街が一望できる。
友人カナと芝生に座っておにぎりや持ち寄ったおかずを食べた。彼女はモードの勉強に来ていて、出身地が一緒で家も近く、ここでは一番気の置けない日本人の友達だ。彼女との関係は日本に戻ってからも続くだろう。だけど、ユアンとはどうだろう?結局彼から日蝕用メガネをもらうのを忘れた。
雲の合間から薄く太陽が見え隠れしている。
ゆっくりと、けれどはっきり雲の影が色濃くなってきていた。
黒いフィルムをカメラのレンズに当てながらファインダーをのぞくと、誰かがかじったみたいに、太陽が小さく欠けていた。

12時すぎ。辺りが暗くなり始め、鳥たちが巣へ帰るかのように森へ向かって飛んで行くのが見えた。
フィルム越しの太陽は三日月のようになっている。
夕暮れ時のように影が増し、空は東の方から闇が迫ってきていた。
真昼なのに、逢魔時のように、あたりは影が深くぼんやりしていた。
風が止み、もう鳥も鳴いていない、あらゆる音が消えていた。
大気には張り詰めたような緊張が漂った。
大地や木々からも影がしみだすように伸び、公園の噴水や遊歩道も覆い尽くし、飲み込もうとしていた。
フィルム越しの太陽は黒く、いびつなリングの形になっていた。
1分ほど後、雲間に光が見え始めた。
かすかに空気が温かくなるのを感じ、緊張がゆっくりとほどけていった。
欠けていた太陽は急速に光を増して、闇は影を潜め、鳥たちが街へと羽ばたき、辺りはいつもの公園の姿を取り戻していった。
けれど、本当にここが数分前と同じ場所なのか、となりのカナも私の知っている彼女なのか、なんとなく判断がつきかねた。
周りで見ていた人も、誰も口をきかず、ぼんやりと空を見上げたまま、呆然と立ち尽くしていた。


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