Haruka Nakamura PIANO ENSEMBLE - SIN

この音を聞くと、懐かしく狂おしく愛おしい、
そういう何かが自分の中にあることを思い出す。
はっきりと「なに」かはわからない。
心の奥底の、記憶の片隅の、茫漠とした霧の向こうの、
誰にも知られていない、自分自身さえも気づいていない場所で、
美しく、醜く、儚く、浅ましく、獣のようで、神々しい
その「なに」かは、震え、鼓動し、熱を帯び、冷え固まり、刻々と形を変える。

忘れてしまった方がよかったこと、覚えてないふりをしたこと、
違うものに書き換えてしまったこと、なかったものになったこと。

記憶という装置からは記録を消され、改ざんされ、違うフォルダにいれられたまま、
それでも、心という部分や、肌や、細胞や、そこに含まれる水が覚えている。
音の振動が、「なに」かを思い出させる。
忘れてはいけなかったこと、ちゃんとそこにあって、
ずっと待ってくれているもの。
体が覚えていて、心が震えて、わけもなく涙が出たり、
苦しくて辛くて、甘く切なく、愛おしい。
「なに」か。

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