なににでもなりたい

金曜日の夜。ゼミで忙しかった1週間が終わり、久しぶりに飲もうよと女2人で居酒屋に来た。

私たちは、来年就活を控えた大学3年生。最近はインターンに行きだす人が増え、ああ私も行った方がいいのかな、と思うような時期だ。

「インターンとか、どこ行けばいいのかわかんないわ。べつに将来やりたいこともないし」

私がそう言うと、「そうなの?」と友人がこちらを見た。

「私は逆に、やりたいことありすぎるなあ」
「そうなんだ、すごい」
「え、ぜんぜんすごくないよ。具体的に行きたいインターン先とかは、私もないし」

そこでレモンサワーをくいっと飲んで、彼女は続けた。

「でも、漠然となににでもなりたいと思っちゃう。警察官も弁護士もスタイリストもCAもさあ、ぜんぶ楽しそうじゃない?」

それを聞いて、私は目から鱗が落ちる思いだった。彼女が並べたまるで小学生が掲げるような夢は、大学生になった私の頭の中からは、今の今まで完全に消されていた。そう気づいた。


「また来週」と彼女と別れて夜道を歩いている間、彼女の言葉が何度もリフレインした。

"なににでもなりたい"

なにもやりたいことがない、なにもなりたいと思えるものがない、そう思う私とはまるっきり正反対の考え方。でも、私も小さい頃は、そうだったのかもしれない。

いつからかだろうか。知らないうちに、お金とか労力とか、足元にある現実を見て物事を考えるようになった。それはなにも悪いことではなくて、至極当たり前のことだ。

ただ、まっすぐ先にあったなににも縛られない想いは、見えなくなった。

私もきっと、そういう大人になった。


ありがとうございます。大好きなスタバ(ガソリン)に使います。