見出し画像

Slapp Happy アルバム『 Casablanca Moon 』、歌詞の訳

1. Casablanca Moon   


いつもフェドラスを被っていた彼だけど、 
今は、トルコ帽を是見よがしに被ってる。 
言う事、言う事に、 
カバラ風の暗示が隠されている。 
煙草を一本吸って、それから、
また、話しの縒りを戻すんだ。 
真上に、カサブランカ・ムーン。 

偽りの身分証を使い、 
モスクに庇護されながら、秘密に活動する彼だけど、 
白露に足跡を残して、 
消えた党員を追跡して、通り過ぎた 
陸土はどれだけだったか、勘定も出来ない。 
真上に、アクナバルザック・ンーム。  

彼の偽装は何所かで漏れた。 
ホボーケン駅では、警官が言った、 
「彼の旅行鞄はなくなった」と。 
そして、彼はオリエントに送られた。 
二重スパイ、混血だ。 

彼の口髭にはコカインの染みがある。 
彼のジグソーパズルはピースが合わない。 
高官たちは、彼の多面を南コーカサス諸国の 
コインに刻印しようと思っている。 

彼は、慎重にしないといけない。然もないと、孰れ、 
換気口の中で、
高官たちに、首のない自分の遺体を晒すことになる。 

電飾の様な連なった汗が彼の目を痛めだした。 
精液の様な神経症が変装の隙間から滲み出している。 
暗い売春宿で、彼は、叫び声で鏡を割った。 
真上に、カサブランカ・ムーン。 

昨日の夕方、とうとう、彼は正気を失った。 
城壁は崩れた。すると、全人類が彼の前に 
立っていた。皆が、手を差し上げて、 
深遠な手真似をして見せた。彼は分からなかった。  




2. Me And Parvati   


パリで、
演奏家たちに取り囲まれて、新蔵品の墓の上で身支度して踊る、
私たちのポーズが映える、
肌の上に星の跡の様な光りが鏤められる、
お祝いをしなくちゃいけないからバーに入る、
会話は専ら恒久について、
彼女は一粒の涙を落とすけどそれはタイランド( タイガーランド ) 高地の森の凍った鹿を思って。
通りに出る、照明で輝く、首を仰け反らせて、
うれしさでおかしくなってて、彼女は尋ねる「いつ死んだか思い出せる?」。 

彼女は有名なステラハイウェイ( ハイドウェイ )の出口車線で有名になった。
通りに出る、
照明で輝く、
私は一つ彼女に質問をすると彼女は直ぐに答えた、( 答えは、彼女が私にした質問だった )。 

急にサン・ジャック通りで探し物をする、繊細な被造物である彼女の背中にひとつ痣が。 
思い出そうとしていると後ろから打ち倒された、
天災の曲線上に於いて彼女の期間は運だったのか間に合わせだったのかは時間が来れば分かるだろう、
私は無理にでも尋ねようとはしなかった。 
通りに出る、照明で輝く、首を仰け反らせて、
うれしさでおかしくなってて、彼女は尋ねる「本当は自分は誰だと思う?」。 




3. Half Way There    


彼はまだ往生してないの、逝ってないわ。 
言ったのよ、わたしの財産は十分だって、
それなら、わたし、川に沿って立ってる 
十二宮に、ひとりで、寝そべってたいわ、 
死んだ時遺してくれたルビーだけの裸で。 

彼はまだ往生してないの、逝ってないわ。 
彼の相貌を一目見れば、分かると思うの。 
額に白黒で印されたもので判別には十分。 
言ったのよ、なぜ、いつ、どこで、と言うことは、 
でも、どうやって、と言うことは、全然言わなかったの。 

彼はまだ往生してないの、逝ってないわ。 
最初、わたしは、踵を返して彼から逃げたの。 
あの頃、彼の苦痛にわたしが気付いているとの思いに考えが及べば良かったのに。 
あの年の春、彼が姿を消さなかったら、 
わたしは、かれを家に送り返してたわね。

彼はまだ往生してないの、逝ってないわ。 
会葬者の大行列の誰もが、認めたわ、 
毛布にくるまって、ボールペンに噛み付いているのが、彼だって。 
会葬者たちは、彼を壁に立て掛けたわ、そうして、回る輪廻へと 
彼を送り出したの、おっきな松板ね、わたしはそんな風にはしないでね。 

わたしはね、いつも、タイムス紙の訃報の行間を読むのよ、 
書いてあるのはね、こうよ: 
彼はまだ往生してないの、逝ってないわ。  




4. Michelangelo    


背中を下にして横たわり、天上に絵を描く…、 
彼は黒を使わない、絶対に、自分の感性に合った色だけを使う。 
烏賊墨色の地の上に、聖人たちの肖像を描く、 
彼の粘着性は、彼の絵と同じで、卵白糊の粘り強さ。 
働いて、精を出して働いて、道楽などしない、 
絵具とバチカン・キャンティで表現する。 
彼の趣味は解剖だと、噂が広まっている。 
彼が身体を完璧に知り尽くしているのは、間違いない。 
十四行書けば、それがソネットを形成する、 
それに、マドリガレにも、ブオナローティは、取り組んでいる。
彼が通りを通った時、悪道に襲われた、 
シーツを被せられ打たれた彼は、蹌踉めきながら街を回り、 
教会へ倒れ込んだ、 その時、彼は一つの構想を身籠っていたから、 
悪道に罵られながらも、その構想を追い続けた。 
彼の全作品は、誰もが観るべきだ。 
最寄りの美術館の学芸員に尋ねてごらん、 
教皇は電話中、ブオナローティに掛けているところ、
でも彼は家に居ない、ちょっと没頭している、 
また始めた、絵具と筆を振り続けている、 
一心不乱だ、恍惚の中で、仕上げようとしている。   




5. Dawn     


黎明、彼は、早馬便、曙の絵葉書の中にいる、 
絵には、光りの細刃が闇夜を切り刻み寸々にしてしまっているのが描かれている。 
星の高速道路を、天空車駕が時速九十マイルで走っている、( 君の愛のため ) 
彼は、右の隅に着席している、唯一人の夜の生存者、 
彼が思っているのは、それは、「君」。 

そして君、君は彼のことを思うばかり、 
彼に一本の紐を落す、彼には泳ぐ間もないのだから。 
実存の海岸への彼の扉はすべて閉ざされている。 
閉じた扉は、彼を裸にして一人きりにするつもりだ、 
君は彼を助けられない、さあ、彼は南の海にいる、 
石の様に沈んで行く…。 

音を立てて閉じる顎門から逃れる彼、 
君は分かっているね、彼には止まる間はない。 
彼と君の間には、最後の扉がある、 
ご覧、彼はそれを通り抜けて ( 君が原因なのだと認めれば、直ぐにも ) 来るだろう。 

行ってしまった、彼は、曲がりくねった生き物の一隊と一緒に、 
君は、後になって、彼の逃走を捕えた映像記録を見たわけだ、 
でも、君は、彼の姿を目で捉えることは出来なかった。 
彼を予見した照準器は惑って別の側を向いていた、 
君が着いた時、誰も待っていなかったね。 
君は躊躇うことなく果敢に飛び出したのに、 
それでも、君は遅かった、 
最終便には誰が乗ったの? 誰の為に?    




6. Mr. Rainbow    


最初のアルチュール・ランボーの詩「 Jeune goinfre 」は、フランス語からと、スリーブにある英訳のものからと、両方を。英訳は、ブレグヴァドさんの訳なのか、何か他の書籍から引いたのかは分からない。 

「食いしん坊の若者」 
フランス語から: 
帽子 
波紋織りの、 
ちんちん 
象牙の、 

トイレット 
とても黒い、 
ポールは見詰める 
戸棚、 

発する 
小舌が 
梨の上に、 

用意して下さい、 
バゲット 
そして、ぐちゃぐちゃに。   


英訳から: 
絹の帽子、 
象牙の尖り、 
衣服 とても黒い、 
ポールは食器棚を見詰める、 
梨の上に舌を突出す、 
用意 
楊枝、と、下痢。  

本歌: 
彼のいっぱいのダイヤモンドでやな感じの投影が、松脂べったりの君の手の中で、球果の様に裂ける。 
彼は砂で出来た食卓の上で、星雲と成るには必要条件である祭りの様な騒乱状態の、ガスを着付けられた。 
彼は、罪へ降りる梯子に足を掛けている天使の様に、断続した発作の様な動きをする。最高潮に達した甘ったるい短歌を希釈しているのだ。 
彼は無線に現れる冷たい幽霊の様に回転される。彼にあっては、誰もが幼年であるけれども誰も幼稚ではない。 
彼は電波の幽霊の胸中の様に冷たい。彼の名前は…、…、  




7. The Secret    


ほら、あそこに行っている人がいるでしょ、素敵な服の、わたしの主人公なの。 
私の脇を通り抜けたわ、その時、ほら、視線を私に送ったでしょう。 
彼が私の恋人。この恋を彼は誰にも知られない様にしてるのよ、絶対にね。 

もう最初っから、彼の言いたいことは、そのまま私の心に入っているわ、頭は通り越してね。
錘りみたいに重いの、 
彼の言ったこと、あなたに教える所だったわ、秘密は守るって、誓いを立ててたのにね。 

彼が歩く様子ったら、もう、 
私、痺れて動けなくなるの。 
彼が話す様子ったら、もう、 
私、霊感で聞き取れるのよ。 
彼、異界から来たのよ、私は分かってるの。 
彼は、自分が異界人だなんて、分かりっこないって思ってるけど。 

彼ったら、毎晩、おなじみの同じ話しを 
一晩中話して、私を寝かさないのよ。 
でも、私、なんでもないわ、って、 
ちっとも嫌じゃないわ、って、 
彼に言ってるの。  

彼ったら、カッチって鳴らして、明りを点すのよ! 
目も眩む昼の明るさを 
夜に出現させるの。 
彼ったら、水星人ね、
出来ることは何でもしてくれる。 
私が思ってることはただ一つ、 
彼の秘密を守ることよ、 
秘密なの。シュビドビド、シュビドビド、シュビドビド、…  




8. A Little Something    


恋人の皆さんに、短いけれどとっておきの話しがあります。でも、畏まらず、お蒲団すっぽり被って身体を延ばしていいですよ。寛いで下さい。さあ、僕が、「恋」についての歌をお聴かせしましょう。 
二人は直ぐに恋仲になると言うのに、何が二人を恋いさせるのか分かるのには、随分とかかるものですね。それに、きっと駄目にする気遣いはないでしょうね。恋のなせるままにしましょうよ。
それは、偶然の巡り会いから始まるのが常なのですよ。カレは、カノジョのことを何ひとつ知らないの。それまで見えなかった道筋が急に拓けるの。でも、見て下さい、その道筋が、「恋」へと辿り着く路なのですよ。 
窓の内側、一つのテーブルに二人だけが着くの。一本のサクソホーンを踊り子たちが取り巻くのを見てる。そして、二人は立ち上がって歩き出す。もう、これが「恋」だと、二人は気付いているのですよ。 
さて、これよりも好い状況設定はないでしょうね。長い休暇で、旅に出ると言うものですよ。切符は予約されてますから。二人とも、「恋」に掛かっているのです。アラスカの先っぽからスペインの端っこまで、どの経度・緯度でも、ひとりをひとりに押し当てて一緒にするのを見るでしょうね。何所でも一緒ね。愛の神の仕業でしょうから、皆さんの所為ではないですよ。  




9. The Drum    


太鼓で、意志を通わせて、間を合わせるんだ。忘れては駄目だよ、君はまだまだ、一流じゃない。僕がその優秀さを認める程の技量に君はなるかな? それ以上になるかな? それとも、君が敢えてする様な仕事じゃないかな? 

ねえ、僕の甘妹ちゃん、君宛の手紙があるよ。( 売れ残り棚で見つけるだろうね。 ) カルカッタで投函されたものだけど、僕は知っているよ、君が前に自分宛に書いた写しだね。 僕たちは、一人が二つに分かれたドラマーがパッと現れるのを見張っていたよ。調子はぴったり合って、おうむ返しに叩いてた。 
( ワン ウォン マネー / トゥー ウォン ショー / スリー ソウト ファニー / バット フォー ウォント トゥー ゴー ) 

太鼓で、意志を通わせて、間を合わせるんだ。忘れては駄目だよ、君はまだまだ、一流じゃない。次の「トン」が来るまで動いては駄目。「トン」と「トン」の間は止まってる、決まりの一つだよ。僕は、足が不自由に見せるのは嫌なんだけれどね。 

ねえ、僕のひめ花ちゃん、僕が何処にいたか当てられる? 全然分からない? 僕は君の部屋を訪れたんだ。君が鏡をどれも引っくり返して壁に凭せ掛けてるのを知っちゃたよ。僕たちは、一人が二つに分かれたドラマーがパッと現れるのを見張っていたよ。調子はぴったり合って、おうむ返しに叩いてた。
( ワン ウォン マネー / トゥー ウォン ショー / スリー ソウト ファニー / バット フォー ウォント トゥー ゴー )   

さあ、ドラムの音に耳を傾けようよ。忘れては駄目だよ、君はまだまだ、一流じゃない。今を逃すと、詰まらなくなるだろうね。夜な夜な活き活きとした夏の月の下で君の魂を陶器のポットに入れるんだ。スプーンの中のゼリーみたいだよ。 

ねえ、[ マ・ジョリ・フローラ ]、部屋に猫がいるよ。君が見慣れた種類じゃないよ。僕は猫を流しに連れてって飲ませようとしたけど、嫌がったんだった、と思うの。   




10. Charlie 'n Charlie    


チャーリーとチャーリーはソーセージ。 
きみは分かんない、どこまでがチャーリーで 
どこからがチャーリーか。 
調査は継続、チャーリーはチャーリーを調べるの、
でもなんにも、途中でやめた。 
だって、チャーリーとチャーリーは同じだもの。 

海岸に降りて集めるのはリューボク。 
チャーリーは思ったの、お店を開けば 
好いじゃない、って。 
砂山越えて、チャーリーの最初のお客が 
接近中、手には、( ブリキ カン )。 
チャーリーはチャーリーを直視したの、男らしくね。 

ぼくは見たよ、チャーリーが飛び上がって叫んだの。 
チャーリーが1ドルコインをチャーリーの 
襟口に落したからね。 
「僕の首を駄目にした! 
もう元に戻らない、( そうだろう ) 
だって、君の首と僕の首は同じなんだから。」って。  




11. Slow Moon's Rose     


銀の蔓の上に、遂に、遅咲きの 
月薔薇がふくらみだす。 
北極圏の川は凍りだす。 
遂に、海は動いていても凍っている、雪の朝がやって来る。 
広げた翼で飛んでいる鳥は、 
もう、歌う歌がなくなった。
海に落ちた草は、帆船の様に高速を保ったまま、氷の上を吹かれて行く。  

その遅咲きの月薔薇を摘んだ川の辺りで、私は、 
たった一つの宝石の所為で宵が萎えるのを、この鼻先で観察した。 
蝸牛は猟師の喇叭銃から逃れようとするけれど、 
陽の下に明らかに這った跡を残して、秘密を漏らしてしまう。   




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?