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発達障害の疑いを保護者に伝えること

「発達障害の早期発見・早期支援のために,保育士に,発達障害疑いのある子を見つけてほしい。
そのためのチェックリストなどのツールは開発済みである。しかし,チェック後に,それを保護者に伝えることに,困難がある。
発達障害のことを保護者に分かりやすく伝えるスキルが,まだ保育士にない。
例えば,専門用語でなく平易な言葉で報告書を出力できる仕組みなど,何か開発を手伝ってくれないか。」

先日,そういったお話をいただきました。
しかし,これはとても難しいお話です。

保護者に伝えるというのは,平易な,つまり,分かりやすい言葉にすればよいという単純な問題ではないはずです。

ひとつ想像してみてください。
自分の子どもについて,ある日,保育士から,とても分かりやすく,
「あなたのお子さんは,こういう面での発達が,ほかの人より遅れています。以上」
と伝えられる姿を。

分かりやすく,ただ「遅れている」と伝えられても,ショックしかないのではないでしょうか。

ましてや,もし「障害」という言葉で突きつけられた場合,そのダメージやいかに。(関連記事「『障害』の重みに悩む方へ」もよろしければご覧ください)

保護者に分かりやすく伝えるポイントは,何のために伝えているのか
ではないでしょうか。

何のために保護者に伝えるのか。私は,次の3点だと思っています。

(1)子どもの健やかな成長のため
(2)園も家庭と一緒に取り組んでいきたいため
(3)具体的には今後こういうことをやっていきたいため

遅れのある子ども自身や保護者を責めたい訳ではないはずです。保護者に子どもの障害を受容させることが目的(ゴール)でもないはずです。
「子どもの健やかな成長のために,一緒に,今後こういうことをやっていきたい」と提案するためのはずです。

この3点を,決して省略せず,丁寧に誠実に伝えることが必須です。どれも欠かせないことですが,中でも一番難しいのが,(3)ではないでしょうか。

この(3)は,子どもの状態をふまえて,その子に合った具体的な支援内容を決めるということです。これが一番大切なことで,一番難しいことです。

専門機関の人でも,検査結果から子どもの状態を把握するところまではできても,その次の,その子に合った具体的な支援法を生み出せるかというと,必ずしもそうとは限りません。もともと難しいものだと思いますし,それに加えて,日々の生活でどのような支援が提供可能かは,その日々の生活をともにする人と一緒に組み立てる必要があります。周辺の環境や資源を把握していない外部の人が作ると,現実に即さないものになりがちです。支援方法というのは,「子どもの状態」だけで決められるものではありません。

理想の形は,発達障害のアセスメントと支援法に関する専門家と,保育士(園),保護者が連携して,支援内容を作成していくことです。ですが,現実問題,そこにはさまざまな形の壁が存在しがちです。まずそのような信頼できる専門家・専門機関が,家や園の近くにあるものでしょうか。そしてその費用は誰が負担するものでしょうか。

せめてもう少し「巡回相談」が適切に機能していればと思うのですが,地域にも寄りますが,巡回相談の制度がなかったり,予約しても何年も回ってこなかったり,保育のプロではあるが発達の遅れに関する専門知や経験が十分といえない人が担当していたりと,いろいろある印象です。

保育士自身が発達障害に関する研修と実践を積み,自分たちで支援法を作れるようになれれば,それが一番ハッピーなことかもしれません。実際,保育士にも職務分野別リーダー(キャリアアップ研修)の制度などができ,保育士の中で「障害児保育リーダー」を育てようという動きがあります。それは大切なことですし,もし各園でリーダーが個々に応じた支援法を作れるなら,とても素敵なことです。しかし,これは保育士資格を超えた知識とスキルを求める話です。障害児保育リーダーも,そこまでの力を求めるものではありません。自主的にその力を身につけるのは素晴らしいことですが,心理師などが担うべきその専門性を保育士に求める(課す)のは,仕組みとして破綻しています。

というわけで,(3)の「具体的には今後こういうことをやっていきたい」を作ることが最大の壁であり,これが作れないうちは時期相応と言いますか,わざわざ保護者に子どもの遅れのことを伝える必要はないのではないかと,私は考えます。

(3)ができる環境であれば,ぜひ,(1)から(3)を丁寧に伝えていただければと思います。

そしてこれは保護者からの相談もないうちに園から伝える必要はないという話で,保護者から相談された場合はまた別の話となります。保護者,園,専門家の連携が必要であることを伝え,できれば保護者と一緒に専門家を探していただければと思います。

ただ,冒頭のご依頼は,本来支援が必要な多く子に適切な支援が届いていない現状に基づいているわけで,だからこそのご依頼です。早期に適切な支援が受けられるか否かで,その後の健やかさに違いが生じる可能性があります。早期発見・早期支援は必要なことです。保育士に専門性を課すべきではないけれど,保育士でできる人が増えればハッピーなのは確かなので,できる人を(課さずに)増やしていく仕組みを,どうにか考えていきたいです。本件に関してご意見・ご提案がある方はぜひご連絡ください。

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