出社拒否期に銭湯が効いた話

 新卒入社してから初めてのGW後からそれはやってきた。出社拒否期である。
 職場に多少慣れてきたことで、「好きではない仕事をこれから毎日やることになる」ことを再認識してしまったのが原因だ。


 ぐずる自分をなんとか宥めて出社する日々が続いた。出社してしまえば案外平気なもので、目の前の仕事に没頭しているうちにあっという間に定時になる。私は退社が大好きだ。程よい達成感とすっきり感を感じる。(会社を一歩出る瞬間、毎回ヨッシャーと呟いてしまう。)

 しかしまた朝になれば出社拒否の念が私を襲う。毎朝の通勤時間には「仕事 行きたくない」「出社拒否 対処」「仕事 在宅 未経験」などを狂ったように検索し続けた。二ヶ月ほどそんな生活が続いたが得た情報は、世の中の人たちも私と同じように仕事に行きたくないということだけだった。意識高めの情報もたくさん読んだが、どれも実行不可能なように思えたので一つも覚えていない。

 ある夏の残業デーに打開策は現れた。
 会社を出たのが午後11時。家に帰ったら0時を過ぎる。そこから風呂に入るのはめんどくさ過ぎるが汗をものすごくかいてしまったので早めにスッキリしたい、と思い会社に一番近い銭湯に寄ることにした。
 何も持っていなかったため、手ぶらセットを頼み銭湯へ。深夜の割にはそこそこ人がいたものの、皆疲れたような諦めたような静けさをまとっていたため居心地は良かった。
 

 早く浴槽につかりたい気持ちから急いで服を脱いで頭と体を洗った。久々の銭湯は胸が高鳴る。薬湯とマッサージ湯と水風呂、それから露天風呂があった。薬湯→マッサージ湯→露天の順番にまわると決意して、薬湯に着水した。昔は臭いなと感じた薬草の匂いが心地いい。身体中の毛穴と鼻の穴から健康が入り込んでくるような感覚がありヘルシーな人間な気分になれた。
 お次のマッサージ湯も良かった。コリをゴリゴリと刺激してくれる。お湯パワーと指圧パワーの相乗効果で、単にマッサージを受けるよりもより血流が良くなるような気がする。
 そして露天風呂。露天っておそらくみんな大好きなんじゃないかと思う。外気にあたりながら温かいお湯に浸かるなんてとてもテンションが上がる。開放感がある。東京の銭湯の露天ってどうなのかしらと思っていたが、遠くにうっすら電車の音が聞こえるばかりで意外にも静かだった。どこか遠くの温泉地に旅行に来たような気分になり風情があった。
 興が乗り、いつもはスキップしていた水風呂に入ってみた。入り始めは心臓麻痺になってしまうんじゃないかと思うくらいに冷たさがしみたが、しばらく入っていると体が薄い膜に包まれたような不思議な感覚になり全然寒さを感じなくなった。むしろ体の奥から熱が生産されていきポカポカした。(湯船に結構しっかり目に浸かっていたのが功を奏したのだろうか)水風呂から出ると、とてもスッキリしていた。このすっきり感のまま今日を終わらせたいと思ったので、シャワーを軽く浴びてお風呂場を後にした。

 帰り道は月がいつもより美しく感じた。夜風も気持ちが良かった。湯上がりのサーダーも美味しく感じた。イヤフォンから流れてくる歌の歌詞も心に深く浸透してきた。五感が鋭くなっていた。嬉しすぎて夜寝る前に書く日課の日記も久々に明るいものになった。


 銭湯に行かなかったら、あの日は「深夜まで残業した日」になっていたと思う。銭湯に行ったおかげで、「銭湯に行った日」になったのだ。その差はとても大きい。
 以来私は仕事後に銭湯通いをするようになった。定期券内で行ける銭湯を片っ端から制覇していった。銭湯は大体15時頃に開くので出社拒否の感情が起きても、会社は銭湯開店までの暇つぶしだと考えるようにした。残業も苦ではなくなった。残業したら、夜遅くの銭湯の雰囲気を味わうことができるのでむしろプラスだとさえ感じる。

 出勤以外でも、何か苦手な事をする日には他の予定も入れておくとその日1日の嫌さの濃度が薄まる。なるべく手軽にできる好きなものを見つけると人生はもっと生きやすく楽しくなるのではないかと思う。


 先人たちが言っていた「趣味を作りなさい。趣味は人生を豊かにする。」や「ガス抜きは大切。」などの発言を今更身を以て知ったという話でした。





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aino

毒親育ちですが結構人生楽しんでいます。長い時間をかけて親と良い関係を築いていくことができたので、そのプロセスを共有できたらと思います。
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