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【全部ネタばれ】年間500人の心を開いてきたプロ・インタビュアーがインタビューされて、インタビューのテクニックをすべて語り尽くした超ロング・インタビュー記事(第二回)

テーマ:価値を理解するための3つの目と、本質の見つけ方

年間500人以上対応のプロ・インタビュアーとして、数多くの経営者、文化人、タレント、学者、医療従事者、アスリート、専門家、ビジネスパーソンの話を深掘ってきた伊藤秋廣(株式会社エーアイプロダクション代表)が、初対面の人の心をわずか数分で開き、気持ちよく論理的に話を引き出すテクニックを、すべて大放出いたします。(聞き手:近藤由美)

価値を理解するための物差し

近藤さん(以下敬称略):
前回のインタビューでは、相手の話を理解することで価値化が可能だというお話を聞きました。理解するためには、インタビュアーがその価値がわかっていないといけない?

伊藤さん(以下敬称略):
そう、そこがポイント。その通りなんです。では、価値を理解するためにはどうしたら良いのか。基準が必要だって話になるし、そもそも未知の分野とか業界とか業種とかの人にインタビューすることだって多くて、もちろん多少の事前準備はしますが、結局、そんなのも付け焼刃でしかないじゃないですか。僕自身、専門性を持っているわけじゃない。でも、話すのは相手だし、僕は理解をして、的確な質問を投げてあげればいい。

そういったスタンスだと自覚したうえで、僕は物事の価値を理解するためには、虫の目、鳥の目、魚の目の3つの目が必要だと思っています。これが、色んな業界とか分野とかに関係なく自分なりに理解するためのポイント。虫の目はミクロの視点というか、虫眼鏡ですね、小さいものもしっかり見る。奥まで見ていく。鳥の目は俯瞰して全体を見る。魚の目は流れ。具体的にいうと、時代の流れみたいな。例えば10年間、定点観測していると見えるものがありますよね。

例えば、音楽が好きだったとして、日本のロックが好きでずっと聞いていたら、時代の流れと連動した音とかメッセージとか流行とか変化がわかる。今、求められている音楽はこうで、こう進化して、こう退化して、こういうふうに楽器構成は変わっているというのが見えてくる。そういう目線は時代の変化の中で養うことができます。

企業の取材をするときに、“あ、これってまったく新しい最先端ビジネスなのか”“ちょっと前に主流だったビジネスを焼き直し、WEBに置き換えているのか…”“ちょっと前のビジネスにテクノロジーが中途半端に付加されただけ?”みたいに、時代の変化と併せて見ると理解が深まる。そうすると「ソリューション」とか、「イノベーション」みたいな横文字に惑わされることなくその本質を捉えることができます。

テクノロジーの進化ってけっこう連続的なもので、突然変異的に新しいモノが生まれるってことはあんまない。AIだって昔からあるし、IoTだって要は組み込みソフトだし。テクノロジーも文化も流行も時系列で押さえておくと捉えやすいんですよ。

一見、新しいビジネスのようで、何かの発展系だと、だったらどの部分が進化して、どこが便利になったのか、その背景は?みたいな疑問がわいてきて、整理して聞きやすい。「WEB上は新しく見えますが、ベースにあるのはオーソドックスな昔ながらのビジネスですね」といった視点や質問が生まれると、そこから「僕たちは昔の商習慣は大切だと思っているし、ベースだと思っている。そこにテクノロジーを入れただけなんですよ」となる。

「あ、なるほど」って。このビジネスの本質は“昔の問屋さんと同じじゃん”とか“置き薬と一緒じゃん”とか置き換えると自分も理解しやすいですよね。それが魚の目。

鳥の目は俯瞰ですよね。上から引いてみる。例えば医薬品業界の話を聞くときに、他の業界と比較して話ができる。質問するときに、「薬品業界は開発費用が製品に乗せられて、何年間かで償却しなきゃならないって話ですよね。でも他の業界だとサイクル早いですよね?」と比較しながら質問投げるから、相手も答えやすい。

ひとつの業界を深く知るっていうより、ちょっとずつ関連業界に知識とか興味とかを拡大していけばいいし、ぜんぜん関係のない業界との比較だって良い。質問するときに関連づけて比較、例示できる引き出しがいっぱいあればあるほどいいし、比較しながら物事を捉えた方がこっちもわかりやすいっすよね。同じモノと違うモノをきちんと整理して捉える。

虫の目は深く掘っていく話だから、一つの事象を深く、深く、深く掘っていく。とはいえ、僕らは専門家ではないので限界があるし、この目はあまり重視していない。っていうか、この虫の目で相手を見ていくために、事前に他の二つの目が見ておくことが必要っていう図式。バランスはとにかくとして、この3つの目さえあれば、とりあえず質問はできる。僕らは、医療を深く知らなくていいわけで、さっき言ったように、比較したり、例をあげながら、もわっとしたものの形をはっきりさせていくような感覚で質問を投げかけて理解していく。相手に話をさせる材料としてこの3つの目線があれば、投げかけができるんじゃないかという話です。深く理解をするためには、僕らが専門家じゃなくても理解できるように、話の構造を整理しやすい質問を投げかけて、話をさせればいい。

身近なものに置き換えたり、比較して考えれば、カタチって捉えやすいじゃないですか。概念とか話だってそう。まったく知らない業界の話でも、比較して置き換えていればわかりやすい。だったら、こっちから水を向けてあげればいい。僕らがわかりやすいように話をしてもらうために、こういう3つの目を持って質問するって感覚です。

で、自分が理解したということを「こういうことですね」って自分の言葉で投げかけて、リレーションしあうことがインタビューの本質かなと思うのです。よくQ&Aで、Q1「どうしてこの会社に勤めることになったんですか?」わーっと話してもらって、はい、じゃあ、次にQ2「今の仕事は?」って、これじゃあ、何だかね。要は「壁打ち」なんですよ。僕が質問して相手がちゃんと返してくれたことに対して、またそれをしっかり理解して返すという。これを絶対にやらなければならない。尽きるまでやっていいと思っている。こっちから話の腰を折ってはいけない、絶対に。質問を重ねていくんですよ。よく「質問力」っていうけど、質問する力より理解する力のほうが大事。

理解の果てに本質が見つかる

近藤:
理解するというより見つける力?例えば、このコーヒーおいしいっていうのは、何も考えないで飲むのではなくて、良さを見つけるように飲む?ということ?でも、そうなるとこっちの意思が入り過ぎてしまう気もします。

伊藤
良さを見つけるっていうのは、難しくて。そこまでおこがましくないというか、良さを見つけるなんて偉そうだなって最近ちょっと思っているんですよ。それよりもひたすら、自分の言葉で話をさせるというか、なんて言ったらいいんだろう、良さなのか…、良さを自分が判断できるのか?っていうのって難しくない?「それいいですね」って、軽々しくいえる立場なのかなって。

近藤:
そうなんですよね、私が「いい」と思うだけであって…。

伊藤
そうなんですよ。僕らは評論家じゃないし、ジャーナリストでもないから、その人が尽きるまで話をさせればいいのであって、聞いているときに、「それはいい話」「すげえな」って判断する必要なんて、本当はないのかもしれないですね、たぶん。それよりも、ちゃんと言い切ってもらうというか。本質ってたぶん、誰もが評価する必要はないんじゃないかな、その人の本質を。あ「その本質すげえや」って評価するのは僕らじゃなくてもいい。

近藤:
評価じゃなくて、理解する。

伊藤:
そう、理解。理解は評価ではないということです。僕らが正しく理解して、次の質問につなげたり、深く掘るために一旦、理解していけばいい。そこで評価することはない。

近藤:
言っていることを正しく受け止めるってことですか?

伊藤:
そうですね。「正しく受け止めて」って…、その正しいも難しい、正しいんじゃなくて…。

近藤:
言っていることを受け止める?

伊藤:
正しいというか、僕らがちゃんとそれを理解しないと、次の質問に繋げられないし、話をしてもらえないから、一回、ちゃんと理解する…。あ、わかった!世の中の評価じゃなくて、相手の立場で理解してあげればいい。共感みたいなもの。

近藤:
例えば伊藤さんが、毎朝早く出勤して掃除をしていることについて、伊藤さんの立場で「えらいな」と言ってあげればいい?? んん?

伊藤:
それはたぶん、早急で。掃除をしていることについて「何でしているんですか?」とはじめる。

近藤:
気持ちよく過ごせるように…。

伊藤:
どうして気持ちよく過ごせるようにって。べつに近藤さんじゃなくてもいいじゃん、別の人に掃除をさせればいいのでは?って疑問が出ますよね。そうやって、どんどん追求していくと根源的な何かがある。人には任せず、自分でやることで周りの人に姿勢が示せるんだ、とか言ったら、そこまでいってはじめて共感して、そういう考えを持っている人なんだと、そこで理解できるじゃないですか。

掃除をしていることが重要じゃなくて、自分でしていることでもなく、それを何でしているか?ということを僕らが理解することが重要で、その人の人間性とか、基本的な考え方とかがわかるというか。さっき、僕らが評価すべきでないと言ったけれど、そこを褒めると相手は喜ぶんですよね、絶対。「あ、そういうことですか?」みたいな。たぶん、そこじゃないですかね。

近藤:
そう思います。

伊藤:
理解して理解して理解して、突き当たったところにオリジナルの本質があって。そこを褒めてあげると相手は喜んで、心を開いてくれて、話をしてくれるっていう感覚じゃないですかね、たぶん(その3に続く)。

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