ペダステ 制・限・解・除(リミットブレイカー)~演劇もインハイも、熱を繋いでゆく~

舞台「弱虫ペダル」新インターハイ篇~制・限・解・除(リミットブレイカー)~
観てきましたよ!観てきましたとも!

今作、個人的には歴代ペダステシリーズの中でもかなりの傑作なのではと感じた。ストーリーのまとめ方、メリハリ、演出、キャストのバランス、どれをとってもすごく良かった。シリーズものの作品ではあるけれど、ひとつの舞台としてすごく完成度が高かったように思う。これから大阪公演も始まり、千秋楽はニコ生で生中継もされるということで、気になっている方はぜひぜひ観てみてほしい!今作から見始めても大丈夫な作りになっているので!


実は今回のサブタイトル「制限解除(リミットブレイカー)」を初めて耳にした時、正直に言うと少し疑問に思った。
「箱根学園王者復格(ザ・キングダム)」「ヒートアップ」「スタートライン」……今までのサブタイトルは、その作品の状況そのものをあらわしていた印象がある(対して「箱根の直線鬼」など、スピンオフ作品では主人公を直球であらわした名前が付く)。でも今回は、あまり今までのセオリーに当てはまっていない印象があった。
『制限解除ってなんだろう?なんの制限なんだろう?』と。
実際に舞台を観たらすぐにわかった、これは今泉の「制限解除」だった。劇中、ゴールを目前にした今泉が、自分のリミットよ外れろと直球に叫ぶ。制限解除とは今泉のことだったのだ。――弱虫ペダルの主人公である坂道ではなく、今泉だ。
そして改めて思った。

――2年目インターハイは、そしてペダステは、「群像劇」だ…!

※以下、舞台のネタバレを含みます。



今作の舞台で描かれるのは、2年目インターハイ2日目を締めくくる最後のレースだ。前作を引き継いで山岳賞争いの場面からはじまり、ついに2日目のゴールを迎え、そして坂道が東堂巻島の峠のレースを目撃する夜の出来事を経て、最終決戦を前にした3日目の朝を迎えるまでのお話。

ハイライトシーンは主に3つ。

①2日目山岳賞前の攻防。主人公校・総北でひとり先行していた鳴子に、今泉が追い付くまで。
②2日目ゴール争い。総北・今泉、箱学・悠人、京伏・御堂筋の勝負にかけるそれぞれの思いと決着。
③2日目レース後の夜、坂道が目撃する、卒業した先輩・東堂と巻島の「峠のレース」。

挙げてみるとわかるが、それぞれのシーン、シーンごとの「主人公」と言えるのは坂道ではないのだ。①は鳴子、②は今泉と悠人と御堂筋、③は東堂と巻島。

ペダルではこういった場面がしばしば見受けられる。
誤解のないように言っておくと、小野田坂道は紛うことなき弱虫ペダルという作品の主人公で、つねに物語の軸になっている。それはもちろん事実だ。

だけど、ひとつひとつのシーンに注目していくと、たとえば今回のゴール前のシーンで今泉が場面の主役だったように、様々なキャラクターがかわるがわる「そのシーンの主役」として物語を紡いでいっている印象が強いのだ。インターハイが2年目に突入してからは、特にそうだ。

小野田坂道という少年がロードレースに出会いインターハイを通して成長していくという、ある意味とても少年漫画的な物語だった1年目インターハイ。それに対して2年目インターハイは、ロードレースに全てをかける少年たちのそれぞれの思いが交錯する様子がより際立って描かれているように思う。個人的には、まるで「自転車ロードレース」そのものが主人公のようだな、と感じている。

シーンの主役は場面ごとに移り変わり、皆が自分の場所で精一杯の走りを見せて、次の場面ーーそして次のキャラクターへと物語を繋いでいく。キャラクターの熱は、また別のキャラクターの力になり、熱いバイブレーションが皆を鼓舞し共鳴させていく。今作リミットブレイカーで、鳴子の魂の走りを今泉がしっかりと受け継いでゴールへ持っていったように。まさしく「群像劇」だ。

少し遡るが、シリーズ第6作『The Winner』の中で、今泉がこんな台詞を言う。
「信じて、預けて、任されて全力で走る。俺も今、それに気付いたんです。それって、ロードレースそのものの面白さだったんですよね。そうか、だから笑ってんだ、俺は」

「信じて、預けて、任されて全力で走る」それはロードレース競技の特徴そのものであり、そして、演劇そのものの特徴でもあると思う。全力を尽くし、熱を伝え、繋げていくということ。

板の上では誰もが主人公だ。役者の熱が他の役者を刺激し、舞台全体が噛み合ったときに生まれる爆発的なエネルギーを、観客である私たちは何度も目撃してきた。ペダステが長い年月の中で幾度もキャストを変えながら、歴代の思いをバトンのように受け継ぎシリーズを繋げてきてくれたことも知っている。
ロードレースと同じだ。

自転車ロードレースと演劇。一見何の関わりもないように見えるふたつが絶妙に重なりあい、熱を増してゆく。それがペダステの魅力なのだと再確認できた、リミットブレイカーは私にとってそんな作品だった。



今回、最後の見せ場「峠のレース」のシーンがすごく良かった。本当に良かった。

まあ私が東堂巻島大好きなこともあるのだが笑、それだけに新キャストによるこのシーンに一抹の不安を覚えていたことも事実だ。けれど、実際に観た「峠のレース」は、とてもとても、美しかった。
東堂と巻島が競いあうシーンのはずなのに、全力で走っている二人はまるで舞っているようで、そして心から楽しそうだった。こころゆくまで自転車ができる(演劇ができる)喜びがそこには満ち溢れていた。
そして、その姿を後ろから目にする坂道は、先輩たちから受け取ったこの熱を抱えてインターハイ最終日に向かっていくのだ。

これだ、と思った。ここにロードレースの、弱虫ペダルの、ペダステの真髄が詰まっている。悲しいシーンではないのに泣きそうになりながら、これ以上の満足があるかと思った。

そして、荒削りながら素朴でまっすぐで坂道の良さがとてもよく伝わってきた新坂道・糠信くんをはじめ、いまやベテランの風格すら漂わせはじめた安心安定の鳴子・百瀬くん、劇場の空気を変える存在感を持つ流石の手嶋・鯨井さん。見るたび成長を見せる青八木・八島くんや悠人・飯山くん、古賀・本川さん。場をかっさらうアドリブを繰り出してくる、銅橋・兼崎さんや泉田・河原田たーくんたちベテラン勢などなど。
私が観たのはまだ幕が開けてまもないころ(5/11夜)だったのだが、キャストの皆さんもバランス良く噛み合っていて本当に素晴らしかった。今週末の千秋楽にはあそこからどれだけの進化をしているのだろうかと、今から楽しみでならない。


一年ぶりのペダステ、本当にとても良いものを魅せていただいた!これまでもこれからも、ずっと追っていきたい作品のひとつ。今後もこの熱量が、バトンが、ゴールに辿り着くまで繋がっていきますようにと、心から願っている。


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