舞台 仮面ライダー斬月の『変身』~呉島貴虎への感謝状


「仮面ライダー」が演劇作品になる。
記念すべき第一弾は、舞台「仮面ライダー斬月-鎧武外伝-」。
2018年12月26日。突然入ってきた大ニュース。青天の霹靂だった。

その第一報を聞いたとき、私は本当に驚いた。
たしかに言われてみれば、「斬月」が――「鎧武」が舞台化に向いている要素はいくつも挙げることができる。
・ニトロプラス(虚淵玄氏)原作であり、メディアミックスとの親和性が高いこと
・多人数ライダーであること
・舞台畑のキャストが多いこと
・「鎧武」はVシネマ2本・小説・映画客演と本編終了後も展開を重ねてきた人気作であること
ぱっと思いつくだけでこのくらいは簡単に出てくる。
それでもやはり、驚きが先に立った。

「仮面ライダー」という作品は、もともと一年スパンで出来ている作品だ。毎年新しいシリーズが生まれ、一年かけて物語を紡ぎ、そして一年で次のシリーズにバトンタッチする。店に並ぶ玩具の変わりようといったら、いっそ潔いくらいだ。
今でこそ本編終了後のVシネマも恒例となったが(そのVシネマすら、鎧武のころはイレギュラーだったのだ)、基本的には一年という期限があることに変わりはない。漫画やアニメと違い、最初から終わりが決まっている。それがニチアサ、仮面ライダーだ。
だから、本編終了後5年も経った今、仮面ライダー鎧武の世界がもう一度目の前に現れるなんて、ほんとうに、夢にも思っていなかった。

しかも主人公は、主演は「斬月」「呉島貴虎」。
私はリアルタイム放送時からの鎧武ファンで、貴虎のファンで、貴虎を演じた久保田悠来さんのファンでもある(過去note見れば一目瞭然だとは思いますが)。正直、こんなご褒美みたいな舞台があっていいのかと思った。
貴虎の衰えない人気はよく知っている。久保田さんがいかに舞台映えする方であるのかもよくよく知っている。
けれど、何度も言うが斬月は5年前のライダーなのだ。しかも、こういってはなんだが主役でも2号ライダーでもない。立ち位置としては4号ライダーのポジションだ。
その斬月が記念すべき最初の演劇作品の主役に抜擢されるなんて。
動揺のあまり泣きながら職場を飛び出したのをよく覚えている。

脚本・演出が毛利亘宏さん、脚本協力に鋼屋ジンさん、監修に虚淵さんと、かつてのスタッフ陣が再結集してくださったのも期待を高めた。毛利さんはもともと演劇畑の方であるし、この方々ならきっと大丈夫。アクション監督に刀ステで名高い栗田政明さんをもってきたこと(そして日本青年館を2週間おさえたこと笑)含めて、東映の本気を感じた。
もちろん、オリジナルキャストは貴虎ひとりなの…?とか、このルードボーイズみたいなビジュアルはなに…?とか、そもそも仮面ライダーの舞台化ってどうなるの…?とか、若干の不安要素もあるにはあった。けれど基本的には楽しみに初日を迎え、そして。

期待をはるかに超えたものを見せていただいた。

※以下、舞台斬月および鎧武シリーズ全般のネタバレを含みます。

ネタバレを避けたいという方は、ぜひ見逃し配信をご覧ください!


よみがえる「鎧武」の世界

まず、これに尽きる、としかいえない。
感情の盛り上がりを大切にし、カッコいいところをとことんカッコよくしてくる毛利演出と、理詰めできっちり世界観のつじつまを合わせてくる鋼屋監修が合わさると、こんな隙のない続編ができるのかと思い知った。
鎧武外伝?とんでもない。これは確かに鎧武の正史だ。

冒頭いきなりの、大塚芳忠さんのナレーション。これだけで一気にひきこまれる。開始1秒で濃厚によみがえった鎧武の世界にまず泣いた。
そしてしょっぱなから高揚しきった私達の前に立ち現れる、呉島貴虎のあの変わらぬ佇まい!間髪を入れずに繰り出される生身アクション!もう見惚れるしかない…!
そこから怒涛の勢いでなだれ込むOP、音楽と見事に合わさった演出とあいまって、観客は物語世界に飲み込まれる。呉島貴虎の文字がドーンと出るあのシーン、観た人みんな大好きだと思う。ああいう、盛り上げるべきところでこれでもかと盛り上げる手法が最高だった。

舞台を長年メインフィールドにしてこられた毛利さんの本領発揮と言うべきか、舞台ならではの演出も我々の胸を熱くさせてくれた。
情景描写や心情表現としてのダンス(鎧武がもともとダンスバトル要素を持っていたから、ダンスシーンにも違和感がないどころか本編とのリンクにもなっている。上手い)、場面を盛り上げる適度なプロジェクションマッピング、多彩な変身シーン、スポットライトを浴びてきらきらと輝くガワ、キレキレに踊るガワ!
仮面ライダーはこんなに舞台映えするんだ!と、心の5歳児が歓声を上げたものだ。目の前で繰り広げられるライダーバトルは想像以上の大迫力だった。シンプルに、カッコいい!

鎧武の物語そのものをオマージュしたストーリー展開にしてもそうだ。あらゆるところで書きつくされているとは思うが、鎧武をまだ見たことのない人にとっては舞台単体でもわかりやすいストーリーに、そして鎧武を見たことがある人にとっては、本編と重なってより心えぐられるストーリーになっている。このさじ加減が本当に巧みだった。
物語の芯は、その「if」たる鎧武世界に対し、”本編を経て変化した”貴虎がどのように決着をつけていくかというところにある。なので、ストーリーの大きな流れやキャラクターの作りはたしかに鎧武本編に重なるのだけども、貴虎を主人公に据えた続編としてもものすごく正統な作りになっている。

(おそらく鋼屋さんの)考証も細やかで唸った。いわば後付けの設定なのだが、きれいに本編と繋がっているし、本編のあのセリフにこんな背景が…!と、元からあった伏線のように仕立ててしまうのが見事だった。
(ちなみにここに挿入された貴虎の前日譚、久保田さんの提案で足されたものだと後で知ってめちゃくちゃ驚いた。これがあるのとないのとでは物語の深みがまるで違ってくる。さすがすぎる…)
私は戦極ドライバーのベルトの色がきちんと塗り分けられているのに感動した。アイムたちが使う未完成品は量産型の銀色なので、アイムはリーダーからベルトを受け継いで使うことができている。それに対して、落下した貴虎から奪ったと思われる(もしくは生前ユグドラシル製を使っており、そのまま蘇ったという可能性も考えられる)雅仁のベルトはイニシャライズされた黄色なのだ。

とにかくとにかく、あらゆるところに鎧武への愛とリスペクトを感じる舞台だった。
それだけでもう、ファンは泣くしかない。

映像から舞台へ、見事な「変身」だった。
ありがとう。鎧武の世界をたいせつにしてくれて、ありがとう。

仮面ライダーの演劇作品化。はじめに道を切り開いたのが、我らが斬月だったことを誇りに思う。そしてこの成功を糧に、たくさんのライダーたちが後に続くことを願っている。


呉島貴虎と久保田悠来の、圧倒的な存在感

そしてこれを書かなければ舞台斬月のことは語れない。

TVシリーズからの唯一のキャラクター、呉島貴虎。演じるは久保田悠来。
幕が開いた瞬間から、そこに貴虎がいた。

いた、としか書けないのだ。頭では久保田さんが演じているのだとわかっていても、目の前にいたのは貴虎でしかなかった。そのくらい自然で、完成された説得力があった。
ただ立っているだけで貴虎だとわかる佇まい、そして圧倒的なオーラと存在感。5年も経っているのに変わらぬ姿。
紛うことなき、作品の「芯」だった。
個人的には、一番最初の登場シーン、片手をポケットに突っ込んでうつむき加減に立つ、あのシルエットを見られただけでチケット一枚ぶんの価値はあったと思う。そのあとの生身アクションと「私だ」でもう一枚ぶん。ここまででまだ開始3分だけど!

記憶喪失から、徐々に記憶と自分を取り戻していく演技も本当に素晴らしかった。合間に挟まれる回想シーンも含めて、演じ分けが絶妙なのだ。影正の正体を問いつめる(現在)→昔のやり取りを思い出す(過去)と暗転なしに移り変わるシーンがあるのだが、振りかえって「…私もそう思いました」と言葉を発した瞬間、ふっと数年若く変わってみえてびっくりした。
今回久保田さんのファンとしても、じっくりとお芝居を堪能できた満足感がすごくある。後述の影正とのシーンなど、何度も鳥肌が立った。

そしてなんといっても声が良い…!低いのに2階席の後ろまできれいに通る、ぞくぞくするくらい耳に心地よい声が最高だった。公演を重ねるごとにさらに研ぎ澄まされていった抑揚のつけかたに、ひたすらにふるえた。変身後のボイスオーバーの声もまた、迫力に満ちていて素晴らしかった。

生身アクションの素晴らしさについても特記したい。
貴虎のアクションは生々しくて実戦的だ。敵の動きを見て対応し、最小限の動きで敵を仕留めていく。その強さがアクションの動きではっきりと伝わってくる。
メリハリの付け方が最高だから、動きに余韻が残る。色気が漂う。とにかくこれはみんなに見てほしい。冒頭の生身アクションだけで100000回は見ていられると思う…!


キャスト陣の熱演

久保田さん――演者の話題になったところで、脇を固めるキャスト陣についても触れておきたい。ほんとうに、今回、全員の熱量が凄まじかったし、公演を重ねるごとにどんどん気迫が増していっているのがわかった。全員が素敵だった。

萩谷慧悟くん(アイム)
声…というよりも、話し方、抑揚の付け方をめちゃくちゃ紘汰に寄せていてびっくりした。どれだけ研究してくれたんだろう。凄い。貴虎がアイムに紘汰を重ねるシーンに説得力しかなかった。
アイムの若いまっすぐさがあるから、貴虎の大人ぶりがさらに際立つわけで、熱い台詞回しがとても素敵だった。回を重ねるごとにどんどん抑揚に深みが出てきていて、そこにも鳥肌が立った。いつかニチアサでもヒーローになっていただけたらいいなぁ…と思うお方!

原嶋元久くん(鎮宮影正)
とにかく、とにかく、圧巻の演技だった…!
心を押し殺しているような序盤から、溜めこんできたものを爆発させるクライマックスまで。感情のアップダウンがとても滑らかで見ていて引き込まれる。
今回それなりの数通ったんだけど、影正は一度として同じ演技がなかった。悲しみ、憎しみ、怒りの混ざり方が毎回違って本当に凄かったし彼の場面でいつも泣かされていた…。
影正と貴虎が1対1で対峙するシーンがめちゃくちゃに好き。あの場面の緊張感溢れる影正と貴虎のぶつかり合い、原嶋くんと久保田さんのお芝居のやり取りが最高で。生のお芝居の醍醐味というものを叩きこまれた気がして、もうほんと、贅沢な時間を過ごさせていただいた…!

小沼将太くん(ベリアル)
いやもうね、あのキャラクターはずるいでしょ、好きになっちゃうでしょ!
鳳蓮さん枠。基本的にシリアスな物語の中、彼が出てきてくれるとほっとしたし癒しだった。見るたびどんどん愛しくなる素敵なキャラに仕上げていらっしゃって、アドリブもどんどん変えていて見るたび楽しかった!
そして目を疑うスタイルおばけ。12頭身くらいあるのでは?身のこなしも常にしなやかで綺麗だった、舞うような殺陣がとても好き。役が抜けるとアフトではがちがちグダグダでたまに雲の上まですっ飛んでくのもすごく可愛かった…ギャップ~~!

宇野結也くん(フォラス)
本当に本当に素晴らしかった!前半のコミカルなキャラクターと(ベリアル同様、フォラスも毎回アドリブをどんどん入れてきていて楽しくて、彼のシーンは基本的にずっと見ていた。しかもそのアドリブが無理に入れたようでなく、とても自然で安定感があるのが凄い)、後半インベス化してからの演技の差。見事だった…!
表情ももちろんなんだけど、身のこなしやアクションでの演じ分けが最高だった。テニミュ時代から見ていた身としては、こんな素敵な役者さんに成長して…!と感慨深いものがある涙

後藤大くん(パイモン)
チームオレンジ・ライドの斬りこみ隊長。つねに重心を低くして鉄パイプを構える体勢がめちゃくちゃかっこよかった!何かが襲ってきたとき、真っ先に向かっていくのはいつも彼なんだよね。そういうキャラ造形もとても良かった。体のキレも抜群で。
何度見ても頭の小ささに震えるんだけど最近の若い子のスタイル驚異的だな!?

増子敦貴くん(グラシャ)
萩谷くんと同じく、本編をたくさん研究されたのかな。随所にかつての戒斗が重なるところがあって鎧武オタクは泣いた。
抑えた声と、抑えきれない激情がグラシャの潔癖な青さにぴったり。金髪に赤編みこみのビジュアルもおそろしく似合っていて、控えめに申し上げて大変かっこよかったです。

千田京平くん(ベリト)
キレキレのダンスが真っ先に目をひいた人。バロック・レッドの長いコートを翻して踊るのがまーーーかっこいい!
グラシャに一番心酔しているのが彼。最後、戦いに向かうグラシャを止めようとするときのお顔が悲痛でとても良かったなあ…(こう書くと泣き顔が性癖のやばいやつみたいですがそういうことではないです)

高橋奎仁くん(グシオン)
公演を重ねるごとにどんどん台詞回しが進化していった印象。アドリブも入るようになって…ベリアルに転がされての「グシオンだよお~」があまりに可愛くて変な声が出そうになったよね。
それとグシオン、襲われた時のやられのアクションがすごく上手!吹き飛ばされるたびに心の中で毎回ひっそりと拍手していた。

田淵累生くん(オセ)
彼と高橋くんは初舞台だそうだけど、とてもそうは思えない堂々とした佇まいで!黒髪赤メッシュのビジュアル最高だった。ちょっと知的な佇まいが他のキャラクターと違ってとても良かった!

大高洋夫さん(鎮宮鍵臣)
やはりこういう方がおひとりいらっしゃると、舞台がぐっと落ち着くんだなあ…としみじみ思って見ていた。
紛うことなき悪役でありながら、選民思想に凝り固まり、自らの没落を認められずに権力にしがみつく者の悲哀すら感じさせる佇まいが本当に素敵。鍵臣写真館をはじめとするアドリブシーンも笑わせていただいた…ベリアルと並ぶ貴重な笑いシーンで、本当に毎回楽しみだった!カテコからお察しするにご本人も洒落っ気のあるお方のようで、とても気になっております。

丘山晴己さん(鎮宮雅仁)
控えめに言って最高でした…雅仁を演じてくださってありがとう…。
貴虎の鏡合わせ、「対」として丘山さんほどふさわしい方はいなかったと心から思える。黒いスーツの貴虎と白いスーツの雅仁が向き合うシーンは、緊張感とともに静謐な美しさであふれていて見惚れるしかなかった。とにかく絵になるんですよこのふたり…。
名前そのままの雅やかな立ち振る舞いの中に、只者ではないと感じさせる空気感が凄すぎて。長物の扱いもさすが慣れていて素敵!
丘山さんのセリフ回しがすごく好き。朗々と響く声に感情を載せるチューニングの仕方がとても繊細で的確なのだ。特に貴虎と向き合って自分の思想を語るときの、穏やかにはじまって次第に熱を帯びてくる声がたまらなかった。


貴虎と雅仁、ふたりを分けたものについて

ここからは、観劇してキャラクターについて思ったことを書いていく。心ゆくまで浸ってキャラクターのことを深く深く考えていられる、そんな物語が私は大好きなのだけど、この舞台もそうだった。

黒と白のビジュアルでとてもわかりやすく示されているように、鎮宮雅仁は呉島貴虎の鏡合わせのような人物として描かれている――雅仁は、「道を違えていたらそうなっていたかもしれない貴虎」だ。

かつて貴虎と志を同じくしていたはずの雅仁は――しかし本当は、そのころから既に二人はすれ違っていたのかもしれない。鎮宮鍵臣に「人類の選別を行わなければならない」と迫られる回想シーン、「無論です」と即答する雅仁に対してそっとうつむく貴虎が対照的だ――スカラーシステムの炎に焼かれ、オーバーロードの力を得て歪みゆく。

人類の未来に絶望し、己が頂点に立って導こうとした雅仁。
私には、ただ人類というだけでなく、権力欲のために人体実験を繰り返す父親への失望が最後のトリガーになったようにみえた。「父さんは何も変わってない」と呟く姿、「鎮宮鍵臣は同じ過ちを繰り返そうとした」と殊更に語る姿に。
「力なき者は散る運命にある」……父親に失望した結果、父と同じ選民思想に至るところが実に皮肉で哀しい。

雅仁の語る絶望も、一面正しくはある。雅仁の見た強者が弱者を見下す世界は、本編でフェムシンムがたどった結末そのものだ。どちらが正しいと断言しきれないそれぞれの正義がぶつかりあう、このなんともいえない苦さがほんとうに鎧武イズムなのだが、それはそれとして。

「"未来"を信じる」かどうか、それが二人を分けたものであったように思った。
今ではない、これからの可能性を。より良くなるはずの世界を。そういえばフルスロットルでも、貴虎は「個とはエラーではない。可能性だ」と言っていたのだった。貴虎の変身は、"未来"への希望だ。

呉島貴虎の「変身」、「信じる」ということ

彼は鎧武本編において、「ヒーローになれなかった男」であったと思っている。
貴虎は強い。戦闘力は言うまでもなく、生命力も強い(崖落ち水落ち地下世界落ちの三段オチにはもはや笑った)。人類を救うという信念も持っている。たぶん誰よりもヒーローに近く、それでも「ヒーローにはなれなかった」――”世界を救ったのは、葛葉紘汰"だった。
では何が貴虎と紘汰を分けたのか。「諦め」だ。
良くも悪くも大人だった貴虎は、全てを救うことを諦めていた。

全てを救う。言葉では言えても、実現させることはとても難しい。人の手は全部を持てるほどには大きくない。
かつての貴虎は、自分の手で救える最大値を救おうとした。こぼれた残りは見捨てざるをえない。それは仕方のないものと諦めて切り捨てようとした。
紘汰は全てを救おうとあがき続け、やがて神になることで、自分の手の届く範囲を広げた。全てを持てる手を得て、星の外へと去った。
鎧武本編のあの戦いを経て、神にはならなかった人間のままの貴虎は、諦めないために、じゃあどうすればいいのか。その答えを見つけるまでの物語が、今回の舞台斬月であったように思う。

「誰かを信じて共に歩む。それが私のノブレスオブリージュ。それが私の変身だ」
舞台の一番最後にこのセリフがある。

自分の手では救いきれないところを、諦めず、誰かに「信じて、託す」。アイムにトルキアの再建を託したように。未来を信じてこの世界を生きる。
貴虎はこれまでにも、人を信じすぎる人間として描かれてきた。弟に「信じちゃいけない人間ばかり信じ込む」と言われるくらいだ。信じて、何度も何度も裏切られる。
それでも何度裏切られても、彼は信じることを貫いたんだと、この舞台を見てわかった。そして彼は「託せるようになった」。ひとりで背負い込まず、誰かの可能性をも信じられるようになった。
そうやって人間のまま「変身」した貴虎に神様が与えるのが、人間が扱える最強の力、カチドキであるのがあまりにも熱かった。人類が人類の絶望を打ち砕く力、それがカチドキなのだ、きっと。

「変身だよ、貴虎」
私は鎧武本編のこのセリフがとても好きだ。人は変わることができる。私たちは仮面ライダーにはなれないけど、夢みた自分に変わることはできる。それが鎧武が伝えたかったメッセージのひとつだったと信じている。
この言葉を、貴虎もまた胸に抱き続けていた。紘汰に導かれてヒーローに変身した貴虎は、今度こそ大人としてアイムを――子供たちを導く。貴虎を追って歩んでゆくアイムのその背をまた、観客たる私たちも心に刻み行くのだ。


呉島貴虎は戦い続ける。
贖罪の旅路は、かつてと同じように重く苦しい時もあるだろう。けれど「変身」を果たした今の貴虎になら、辛いばかりでなく、安らぐひとときも頬を緩めるひとときも訪れているのだろうと、今なら信じられる。
呉島貴虎はこの世界で戦い続けている。きっと今、この瞬間も。そのことに胸は痛むけど、でも、ひそかに勇気をもらっているのは、きっと私だけではないはずだ。

ありがとう、貴虎。
ありがとう、ヒーロー。私たちの世界を信じてくれてありがとう。
あなたが信じてくれるなら、きっと私は、この世界のことを昨日よりも好きになれるだろう。


さて追記。
舞台「仮面ライダー斬月」はすでに大千秋楽を迎えたが、見逃し配信がまだある。
ここまで読んでくださって、まだ見ていなかったけれど面白そうだな、楽しく見たけれどまた見返したくなったな、と思ってくださった方がいらっしゃったら、是非配信でもう一度観てみて欲しい。正直にいえば全人類に観てほしい。超絶かわいいカテコも付いてるよ!
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