エーステ!板の上とリアルが重なる瞬間~春夏公演ライビュ特別映像の絶妙さ

「MANKAI STAGE 『A3!』」略してエーステ。

イケメン役者育成ゲーム「A3!」の舞台化作品だ。先日大好評のうちに第1弾が終幕し、今は第2弾「~AUTUMN & WINTER 2019~」が絶賛公演中。観に行ったよ!めちゃめちゃ楽しかったし泣いた…!

私は原作ゲーム「A3!」のコアファンではない。ただ、「A3!」というゲームの存在自体は、リリース当初から耳にしてはいた。コンセプトを聞いてはじめに思ったのは、正直に言おう、「うまいところを突いてきたな……!」ということだった。


2.5次元舞台と若手俳優ファンの隆盛×イケメン育成ゲームという絶妙さ

2.5次元舞台。言わずと知れた、ゲームやマンガなど2次元が原作の舞台作品。

この2.5次元舞台がいま隆盛を極めている。2.5次元のパイオニアと言われて名高い、ミュージカルテニスの王子様(テニミュ)の初演は2003年。それから15年経った今、2.5次元舞台はどんどん規模と認知を広げてきた。最近ではミュージカル刀剣乱舞(刀ミュ)の紅白出場などが話題にもなり、お茶の間にも2.5次元の知名度はそこそこ広がってきたのではないかと思う。

その広がりと同じくして、2.5次元舞台によく出演する若手俳優たちも増えてきた。作品が増えたのだから、出演する俳優が増えるのは当然。そして俳優が増えれば、自然、俳優ファンも増える。私の周りでも、いわゆるオタク女子に2.5次元舞台ファン、俳優ファンが増えている体感がある(もちろん私もファンだ)。

そして若手俳優を追いかける醍醐味のひとつに、彼らの成長を見守るというものがある。……と思ってるんだけど、みんなそうだよね?いやホント、ちょっと見ないうちにものすごい成長をみせるんだって…!びっくりするから!初日と楽で顔付きから変わってくるんだから!

……失礼、取り乱しました。そんな「若手俳優のファン」と、キャラクターを育てて一緒にストーリーを進めていく「育成ゲームのファン」は、根本の楽しみ方がすごく似ているように思う。すごく親和性が高い。アイドル育成ゲームは沢山あるけれど、そこに「役者育成」を掲げてきたA3!はとても時流を読んでいるなと感じたのだ。


「役者育成ゲーム」の舞台化という絶妙さ

そしてこの「役者育成ゲーム」が、満を持しての舞台化である!

舞台で舞台の話をする。若手俳優が若手俳優の役をやる。こんなハマリ役があろうか。否応なく、キャラクターと俳優自身の姿が重なり合っていく。「舞台が楽しい」「演劇がしたい」キャラクターのセリフが、そのまま俳優たち自身の心の底からの言葉のようにも思えてくる。しかもストーリーは、デビューしたての役者たちの葛藤や悩み、座組のチームワークができあがるまでの紆余曲折、それらたくさんの壁を乗り越えてひとつの舞台を作り上げるまでの物語。我々2.5次元舞台ファン、俳優ファンが現実で見守っている物語そのままだ。バクステやSNSの発信から我々が必死に読み取ろうとしている物語がそこには広がっているそんなの舞台ファンが感情移入しないわけがない。こちらもすごく親和性が高い。うまいところを突いてきたなと、ここでも思う。


千秋楽ライビュ最後、メタの重ね方の絶妙さ

そして最後に特筆しておきたい、というかここが一番書きたかったところなわけだが。

エーステ初演「~SPRING & SUMMER 2018~」の千秋楽ライブビューイング。本編中継終了後、ライビュ鑑賞者だけに向けた特別映像が流されるということが事前に告知されていた。

ライビュ向け特別映像は、他の舞台でもしばしば見かける特典だ。だいたいは、公演終了後、興奮冷めやらぬ役者たちがライビュ視聴者に向けて一言挨拶をしてくれる。役を解いた素の彼らが見られる貴重な機会でもあるし、あと、単純に大仕事を終えてはしゃぐ彼らを見るのは可愛い。

で、だ。エーステの特別映像もそういうのが来るのだと、わたしはすっかり思い込んでいた。

ところが。終演後、大画面に流されたのは、役者たちがこの公演に向けて稽古を重ね本番に向かうまでの記録、つまりエーステのバクステダイジェストだったのだ…!

もともとA3(2次元)は、ストーリー内の架空の劇中劇に向けて稽古を重ねるキャラクターの、いわば”バックステージ”を描いた物語だ。その時点で一種の入れ子構造になっている。それを、エーステではさらに3次元の役者たちが演じてみせ、その上で、ライビュ特別映像で”3次元のバックステージ”までもを見せてくる。

入れ子が重なり過ぎてめまいを起こしそうになる。あまりに絶妙な”重ね方”ではないか。

舞台は――板の上で起こる出来事は、いうまでもなくフィクションだ。けれどそこに、偶然か必然か、ふとリアルが重なる瞬間がある。「現実を反映した物語」もしかり。「キャラクターと役者のオーバーラップ」もしかり。フィクションとリアルが重なる瞬間は、明らかに数ある舞台の魅力のひとつだ。そして、とくに2.5次元舞台ではそこに魅力を感じるひとが多いようにも、思う。

エーステのライビュ特別映像は、おそらくは意図的にその瞬間を作ってのけていた。そのダメ押しのような”重ね方”にわたしは呻き声を上げるしかなかったし、さすが、と感嘆するばかりであったのだ。

さて!現在絶賛公演中のシリーズ第2作~AUTUMN & WINTER 2019~。今回のライビュ特別映像も、バクステのダイジェストなのだろうか?それともまた何か違う趣向を見せてくれるのだろうか?公演そのものの素晴らしさはもちろんだけど、そんなところにもまた、わたしはわくわくしているのである。

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