麻婆豆腐

99.麻婆豆腐はカレーなのか? 問題

生まれて初めて四川の成都へ行ってきた。昔から四川料理が大好きで、いつか訪れたいと思っていた場所だ。ただ、今回の旅の主目的は、「四川料理を食べる」ではなく、「麻婆豆腐はカレーなのか? を調べに行く」である。そもそも、そんなことに疑問を持ったことはなかった。調理プロセスとしては似ているよな、と思ったことはあったけれど、カレーかどうかなんて……。とある人に真顔でそう聞かれ、気になったからやってきたのだ。

幸運なことに、ホテルの調理場で料理長から麻婆豆腐づくりの個人レッスンを受けることになった。麻婆豆腐の作り方は知っていたし、日本でも実は得意料理のひとつとして、何度も作ったことがあった。でも、現地でシェフから直接習えるのは興奮する。ざっと、習った作り方は以下の通り。

1. 鍋に油を熱する。……(はじめの香り)
2. にんにくとしょうがのみじん切りを加え、その上にすぐに豆板醤を乗せる。ゴムベラでゆっくりと上から押さえて混ぜ合わせていき、油で炒める。……(ベースの風味)
3. 牛ひき肉を加えてよく混ぜ、きっちり火を入れる。……(うま味)
4. 粗挽きの唐辛子を加えて炒め合わせ、唐辛子&豆のソースを混ぜ合わせる。……(中心の香り)
5. 湯を注いで煮立てる。……(水分)
6. あらかじめ湯につけておいた豆腐を加えてざっと混ぜ合わせる。グツグツと3分ほど煮る。途中、チキンパウダーを混ぜ合わせる。……(具)
7. にんにくの葉をふたつまみほど加えて混ぜ合わせ、水溶き片栗粉を加えてとろみをつける。花椒振りかける。……(仕上げの香り)
 
非常に興味深かった。細かい点は割愛するとして、(カッコ内)にあえて表記した通り、手順が見事にカレーである。僕が昔から提唱している、スパイスでカレーを作るときの「ゴールデンルール」と酷似しているのだ。「香りと味を重ねていく」といつも料理教室などで説明している通り、1番から7番までのステップで麻婆豆腐が作られる。

前半で炒めて風味を際立たせ、後半で水分と具を加えて煮るという点は同じ。1番でホールスパイスなどを使わない点(カレーでも省略するパターンは無数にある)や、2番で玉ねぎが登場しない点(玉ねぎを使わないカレーもたくさんある)、4番で使うスパイスの種類が少ない点などはあるにせよ、調理プロセスで比較をすれば、「麻婆豆腐はカレーである」と言えなくもないじゃないか。そんなバカな……。

この問題を突き詰めようとすれば、「カレーとは何か?」という答えの全くでない問題を触らなくてはならない。「カレーの全容解明」は僕が死ぬまでに果たしたいことであるので後回し。調理プロセスは別として、料理なのだから、出来上がりの味わいで比較したら、「麻婆豆腐はカレーではない」と僕は思う。まったく別の味わいを持っている。玉ねぎを使わないのはいいとして、やはり、唐辛子だけではなく、ターメリックとクミンかコリアンダーあたりがここに入れば「豆腐カレー」というべき味わいになるだろう。それがない以上、僕の独断による結論として「麻婆豆腐は麻婆豆腐である」としておきたい。

今回、唐辛子と山椒のバランス(麻…しびれ、辣…辛み)というのは改めて素晴らしいと実感した。まだ気持ちの厚い年内あたりは、いくつかのイベントで、この「麻辣」にカレー的なスパイスを追加していくパターンのカレーを作る機会が増えそうな気がするが、それで従来の麻婆豆腐や従来のカレーを超える何かが見つかりそうな予感はしない。
実際に四川を訪れてみなかったら気づけないことがたくさんあってよかったと思う。

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