サグカレーのほうれん草はピューレかペーストか? 問題

初めて緑色のカレーをみたときの衝撃は忘れられません。タイカレーの優しい緑色ではなく、インドカレーの方のどぎつい緑色のほう。まるで絵具の“ビリジアン(ありましたよね!”を水で溶いたようなものがたっぷりと器に盛られてくる。これ、食べるの!? これが、カレーなの!? 恐る恐る食べてみると、ちゃんとカレーの味がする。なぜ!? 催眠術にかけられたような気分になりました。大学時代にインド料理店で働いていたときのことです。

その後、サグカレーを自分で作るようになって、味と色味の関係を知りました。玉ねぎとスパイスを炒めたベースにきっちりカレーの味があるから、ほうれん草を加えてもカレーはカレーであり続ける。一方で加えるほうれん草はかなり大量だから、混ぜ合わせていくと色はみるみるうちに鮮やかな緑色になっていく。ただし! そこから煮込みすぎると色がくすんでしまうんですね。だから、長い間、ほうれん草は仕上げに混ぜ合わせるようにしていました。

ところが、だいぶ経ってからロンドン・コヴェントガーデンにあったモダンインディアンレストランのシェフから、パンジャーブスタイルのサルソンカサグを直接教えてもらう機会に恵まれ、僕のサグカレーのイメージはがらりと変わりました。サルソンカサグは、からし菜をメインに使います。その他、グリーンチリやフェヌグリークリーフ、ディルなどかなりの種類のフレッシュスパイス(ハーブ)をどっさり加えてフードプロセッサーでピューレにする。さらに鍋に加えた後、しっかり時間をかけて煮込むんです。色はくすみます。でもこのほうがうまい。

日本でサグカレーを作るインド人シェフは、“緑色の驚き”が欲しいからか、鮮やかな緑色をキープするためにいくつかの手法をとります。かつての僕のように仕上げの後半で加える人、色が濁るのを嫌ってターメリックパウダーを使わない人、鮮やかなまま色を止めるために重曹をカレーに加える人……。ただ、鮮やかな緑も大事ですが、色を諦めてでもうまいほうがいい。だから、僕は今はロンドンで学んだスタイルを踏襲しています。たっぷりハーブを加えてそこそこ長い時間、煮込む。サグカレーってこんなにうまくなるんだ! という驚きの味に出会えます。驚きの色、ではなく。

ところで、茹でたほうれん草は、ピューレにするべきか、ペーストにするべきか。これは、大きな問題です。正解はない。食べた時のテクスチャーをどうしたいのかによって違う。そもそもピューレとペーストの違いがややこしい。僕も正確にこの言葉の意味する状態の違いはわかりません。おそらく水分量の違いだと思います。ピューレとは水分をある程度含んでいるが、ペーストは水分がほとんどない状態。調理器具によって変わります。ミキサーやブレンダーでつぶす場合は、少量の水を入れる必要があるから仕上がりはピューレになる。滑らかで適度にとろみのある緑色の液体です。フードプロセッサーでつぶす場合は、水が必要ないからペーストになる。ほうれん草など青菜のテクスチャーを適度に残したペタペタとした状態で、そのままパンにでも塗れるような状態です。僕はフードプロセッサーでペーストにするのが気に入ってます。でもフードプロセッサーがないなら、半量をミキサーでピューレにして残りを庖丁で細かく刻むと滑らかさと舌触りのいいとこどりができます。いずれにしてもサグカレーは、「青菜を存分に味わうカレー」だと覚えておいてください。

ところで僕が生まれた初めてサグカレーを食べたのは、小学校1年か2年のとき。場所は地元の浜松市にあったインドカレーの名店「ボンベイ」です。あそこのサグカレーはどちらかというとどす黒い緑色をしていました。おそらく煮込み時間が長かったからでしょう。今思えば、鮮やかな色味よりも味わいを優先させたサグカレーを僕は幼いころから食べ続けていたんですね。

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水野仁輔

カレー

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