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66. 唐辛子だけでカレーをつくることはできるのか? 問題

インドへ行ってきた。南インドのタミル・ナドゥ州にカライクディという街があって、この辺りで生まれたチェティナード料理を探求しにやってきた。泊まっているバンガラホテルで毎日レッスンを受けているのだが、ちょっと面白いハプニングがあった。マトンウップという、このホテルのシグニチャー料理のひとつを習ったときのこと。シェフがターメリックを入れ忘れたのだ。

料理のはじめに材料を見せてもらったが、まず興味深かったのは、スパイスと呼べるようなものは、グンドゥと呼ばれる丸型チリとターメリックだけだった。なるほど、これでカレーができるなら、それは面白い。

鍋に油を熱し、シェフはいきなり種を除いて半分にちぎったチリをどっさり投入した。そこから煙が上がるほど炒めまくる。それから小玉ねぎとにんにくを加えて炒める。ざく切りのトマトが入る前にターメリックパウダーを入れるはずだった。ところが、黄色い粉は登場することなく、トマトが入り、マトンが入り、水が入ってふたは閉じられたのだ。

あ、ターメリックを入れ忘れてる。

一瞬、指摘しようかと思ったが、そのままにしておくことにした。あそこにターメリックが入ったらどんな味になるのかは、インドにいる間に僕が自分で再現すればいいことだ。それよりも、いま、あの鍋の中にはチリしかスパイスは入っていないのである。それでカレーになるのかどうかが知りたかった。

1時間ほどたって、カレーはできあがった。食べてみると、うまい。そして、カレーの味がする。念のため、同行メンバー何人かに聞いてみた。カレーの味がしないかも、といったのは一人だけ、あと数名はマトンカレーだと認識した。ならばスパイスは、唐辛子だけでカレーはできるということになる。にんにくをスパイスとすればふたつになるが。

あのマトンウップに予定通りターメリックが入れば、カレー感はさらに強まっただろう。レシピ本を確認すると、本来は、ホールのシナモンも使うようだ。シナモンについては、材料に準備がなかったから、シェフがデモンストレーション前に要らないと判断したと思われる。

「チリ+ターメリック+シナモン」のカレーと「チリ+ターメリック」のカレーと「チリ」のみのカレーは、どれもカレーになる。ある人にとってはどれもカレーではない、ということにもなる。レシピに表記されているメニュー名はこうなっている。「Chettinad Mutton Fry(Uppu Kari)」。「チェティナードマトンフライ(ウップカリー)」と読む。チェティナードのマトンカレーのうちのひとつと解釈していい。

作り手がカレーだと言えば、その料理はカレーになるし、食べ手がカレーではないと言えば、その料理はカレーではなくなる。まったく面白い食べ物だと思う。どちらにせよ、この料理の風味を決めているのは、日本ではなかなか手に入らない「Goondu Milagai」という丸型チリである。マイルドな辛味と香ばしい風味を持ったチリをインドにいる間に存分に使って料理してみたいと思う。

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水野仁輔

スパイスを通じて刺激的な体験をお届けする「AIR SPICE」代表。カレーにまつわる大小さまざまな問題についてウジウジと実験したり考察したりします。 http://www.airspice.jp/

カレー

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