そのルウカレー、うま味、足しすぎじゃないのか? 問題

カレールウで作るカレーのことをルウカレーと言います。誰かが決めた呼び名ではなく、なんとなくそう呼ばれている。スパイスで作るカレーはスパイスカレーと呼ぶ。カレールウだってスパイスを使って作られてるじゃないか……。カレー粉で作るカレーのことをカレー粉カレーとは呼びません。ま、いいか。

カレールウというのは、箱の裏の原材料表示を見ればわかる通り、コクとうま味の塊。そのカレールウを使ってカレーを作るときに、バターだのはちみつだのしょう油だのをさらに追加する意味は、果たしてあるんでしょうか?

ある。いや、ない。あ、ある。ないかもなぁ。人によって答えは違いうます。その人の今現在の好みによって違うのですが、その好みが時間の経過とともに変わってくるから、人によって違うのと同時に、その人個人においても時期によって違ってくる。

カレーは、足し算と引き算を永遠に繰り返す料理です。おいしくなるアイテムを足していくといつものカレーがどんどんうまくなっていくような気がする。無尽蔵にうまくなるかといえば、そうではなく、ある一定のところまで行くとそこから先は、味が壊れ始める。つまり登っていた山の頂上に到着し、そこから先に道はないからです。壊れたと思うかどうかも人によって違うから、山の頂上はその人が決めることになります。

頂上に到達した人は、そこに住み続けるかというと、そうではなく、降り始める。登るのとは別の快感が降りる時にあるからやめられない。足し算でうまくなっていたカレーが、引き始めるとまたこれはこれでうまいと感じるようになるんです。あれ? おかしいな。昔はこんな素朴なカレーをおいしいとは思わなかったのに……。

下山し、平地に降り立つ。そうか、ルウカレーは、隠し味なんてなにも加えないほうがうまかったんだ。これは、大きな発見だ。そんなことなら、あの山は登らなきゃよかったな、と思いますか? いや、そんなことはありません。山登りは楽しいなぁ、と思うんですね。ふと辺りを見渡すと、次の山が目に飛び込んできた。お、あの山も面白そう(おいしそう)だ。そうして人はまたカレーに別のことを加え始める。それは、新しい隠し味かもしれないし、試みたことのないテクニックかもしれません。とにかく足していくんです。

あとは同じ。いくつもの山を登って降りる。登山の喜びを知ってしまった人は、いつまでもまだ見ぬ山を求めて登り続けるでしょう。山登りはいいや、シンプルなカレーが一番うまい。そう思えば、どの山にも登らなくなります。

日本中でカレーを作っている人が、あちこちの山を登り降りしているのですから、誰がどこにいるかによって正解は違うし、提案するべきカレーのレシピも変わってきます。だから、レシピの提案は、あの手この手、あの角度この角度からいつまでもし続ける意味があるんですね。

cakesで始まった連載、今週は、ルウを使って作る欧風カレーにコクやうま味を加える様々なアイテムを解説しています。ひと言でいえば、足しておいしくする手法を紹介しているわけですが、これが、「なるほど!」と思う人と「その山は登ったよ」と思う人がいるんでしょうね。でも、登山の喜びをまだ知らない、という読者の方々には、こう声をかけてあげたいですね。

「まあ、ひとまず、足すだけ足してみようよ。引くのは後からでもできるから」


cakes連載「ファイナルカレー」第三回:
▶「 欧風カレー」のコクと旨味の素材たち

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水野仁輔

カレー

コメント1件

崩れはじめる(笑)
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