ハーブ

89. カレーの仕上げに最も相性がいいハーブは何か? 問題

はじめの香り、中心の香り、仕上げの香り。この3種類の香りづけを駆使して作るのが、スパイスで作るカレーの醍醐味である。と、まあ、僕は昔からそう言っている。ゴールデンルールなる偉そうなネーミングの手法を提案した時から、そう言うことにしているから、料理教室なんかをするときには必ずその解説を交えている。

はじめの香りは一番最初に油で炒めるホールスパイス。中心の香りはニンニク、ショウガ、玉ねぎなどを炒めたベースに混ぜ合わせていくパウダースパイス。仕上げの香りは、文字通り、カレーが完成する直前に加えるフレッシュスパイスのことをさす。仕上げに加えるのはフレッシュのホールスパイスに限らず、ドライのホールスパイスやパウダースパイス、フレッシュのペースとスパイスなど多岐にわたるが、まあ、わかりやすくフレッシュスパイスを加えましょう、と言っている。

フレッシュスパイスの中でも特にメジャーなのは、ハーブと呼ばれる葉ものである。ゴールデンルールはインド料理の手法をベースにしているし、僕自身、カレーを作るときの組み立てのベースはインド料理の手法だから、仕上げの香りを加えるなら、コリアンダー(香菜)やカレーリーフが活躍することになる。どちらも大好きな香りだ。

でもなぁ……。猛暑だった今年、ベランダで青々と茂っているカレーリーフの葉を眺めながら、例年のようには気持ちが盛り上がらない自分がいた。ちょっとカレーリーフに飽きてきたのかもしれない。香菜も相変わらず好きだが、このところの大流行にちょっと冷めている自分がいる。苦手な人も多いから、料理教室なんかをするときには別のハーブで代用することもよくある。

つい先週末、大阪の阪急うめだ本店で料理教室を実施した際、食材の買い出しに行ったらペパーミントとローズマリーが目について、これらを香菜の代わりに使うことにした。鍋をふたつ並べ、二刀流でカレーを作る。玉ねぎの切り方と加熱の仕方だけを変えて同じレシピのチキンカレーを作り、ひとつの仕上げにミント、もうひとつの仕上げのローズマリーを加えた。どちらも過去に幾度となく使ってきたハーブである。

試食をしたとき、改めて、ローズマリーの香りの魅力に圧倒された。口に運ぶ直前からごくりとやるまで華やかな香りに満たされるあの感じは、改めて新鮮だった。ミントも悪くないがちょっと繊細だから、加熱せずにトッピングするくらいのほうがいいかもしれない。仕上げの香りに何を選ぶかは作るカレー次第で変わるし、好みによっても変わる。とはいえ、ここ数年でカレーの仕上げに使ったハーブで気に入ったベスト5はなんだろう? と考えた。

第5位:カレーリーフ
やっぱりカレーリーフは好きである。あのフレッシュなのに香ばしい香りはクセになる。油で炒めて加える方法(テンパリング)ばかりをしていたが、数年前から、手で揉んで加えたほうが香りがいい気がしてそちらを採用している。が、飽きてきたことは確かだ。

第4位:バイマックルー
こぶみかんの葉は、その昔は大嫌いな香りだった。トイレの芳香剤のようじゃないか! あんなものを食べる人の気が知れない! と思っていたのは、本当に昔の話。スーッと爽やかな香りはビシッと辛いカレーによく合う。

第3位:レモングラス
フレッシュのレモングラスでなければ、という条件つきだけど、素晴らしい香りだと思う。たまにスーパーで緑色の葉先の部分だけを売っているがあれもあまり使えない。とにかく立派なレモングラスが2~3本手に入ったら叩き潰して煮込みに使いたい。カレーの仕上げに混ぜ合わせる以外に、あれを噛みながらカレーを食べるのもいいんじゃないか、と思う。

第2位:バイメンラック
いわゆるタイバジルの一種だ。千葉にある友人の畑でとれたてのバイメンラックをどっさりキーマカレーに加えたときの味わいは忘れられない。ただ、あれは、ちょっと贅沢すぎる使い方かもなぁ。いつもあんなにたっぷり使えるんなら、バイメンラックと共に生きていってもいいと思うくらいだった。

第1位:ローズマリー
ローズマリーの香るカレーが好きなのは、一般的にカレーに使われる機会が少ないハーブだからなんだろうか。西洋の香り、という印象が強いからアジアの味わいであるカレーと合わせるイメージが薄いのかもしれない。でも、僕は好きだなぁ。焼きカレーのときに加えることもあるけれど、カレーに使うなら焼くより煮込んだほうが、香りがいい気がする。4人前に2本くらいを加えてざっと混ぜ合わせ、2~3分コトコトして火を止める。盛り付ける前に取り出して捨てても鍋の中はあの香りで満たされている。

僕のカレーがインド料理をベースにしているから、インドから少し離れたところにあるハーブとの相性がいいように思うのかもしれない。カレーリーフはスリランカ料理でも頻繁に使うし、第4位から第2位はタイ料理を代表するハーブだし、ローズマリーは西洋料理のイメージが強い。

このハイブリッド感、多様性を取り込んだスタイルは、音楽で言えば、僕が最も影響を受けた、スライ&ザ・ファミリーストーンに似ている。なんの根拠もない話になってしまったが、そういうカレーが自分は好きだ。これからしばらくは、“スライカレー”を探求してみることにしよう。

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