44. タイカレーの味と香りを決めている正体は何か? 問題

あまり大きな声では言えませんが、昔、タイ食材関連会社の社長がこう言ったことがあります。
「日本人にタイカレーをたくさん売るには、ナムプラーの量を増やせばいいんですよ」
タイカレーのおいしさをどこに見出すのかは人によって違うとは思います。でも、この社長の発言は当たっているのかもしれません。僕たち日本人は発酵調味料のうま味が好きです。その点で言えば、カレーペーストに含まれているカピと呼ばれるエビを発酵させた調味料も大きな役割を果たしていると言えます。これも大きな声では言えませんが、タイ料理を支配しているとさえ言われている某食品メーカーの化学調味料「○の素」みたいなものがおいしさを担保しているのかもしれない。
あまり知られていないことですが、ココナッツシュガーという砂糖もタイカレーには入ることが多い。あれが入るとうまくなる。やはり、甘味は偉大なんですね。
ココナッツミルクのまろやかさやコクも大きな存在です。日本のタイカレーペーストは、モノに寄りますが、最初に油で炒めてから具を入れたりココナッツミルクを入れたりして煮るものが多いと思いますが、タイでタイカレーを作るときには、まずココナッツミルクを鍋に入れて沸かし、油分が分離してきたところでペーストを混ぜ合わせるパターンが多いと思います。あのスタイル、日本でもやってみたいのだけれど、国内で手に入るココナッツミルク缶では、十分に油分が分離しないんですね。だから、先にペーストを油で炒めたくなっちゃう。
味の決め手はいくつかありそうです。では、香りの決め手はどうでしょうか? それはもちろん、スパイスやハーブになります。特にフレッシュな状態のもの。タイカレーは、このフレッシュスパイスが活躍します。タイならではのニンニクやショウガ、玉ねぎ、レモングラス、それからなんといってもチリ。これらをつぶしてペーストにすることで、香りが立つ。
そう、ここにとても大事なポイントがあります。フレッシュスパイスを“つぶす”んですね。切るのではなく、つぶす。ペーストにするんだからそりゃ庖丁で切るのとは違うだろう、と思うかもしれません。でも、考えてみてください。みなさんが何かをペーストにしようとするときに使う道具、ブレンダーやミキサーには何がついてますか? 刃です。刃で切ってペーストにしているんですね。実は、刃で切るのは潰すほど香りが立たないんです。だから、タイではすり鉢を使ってつぶします。
きれいに刃を入れるよりも、雑に叩き潰したほうがスパイスのエッセンシャルオイルが揮発しやすくなるんだと思います。すれ違ってしばらくして気がついたら切られている、みたいな、ルパンに出てくる五右衛門のようなスマートな方法では、いまいち香りが立たない。タイカレーペーストを作るときは下手くそにつぶしたほうがいい。ただ、タイのショウガやレモングラスは硬いから、すり鉢でペーストにするのは超大変なんです。取材したタイ食材店のお母さんも「これをやるのは大変すぎるからペーストを使ってる」と言ってました(笑)。
今夜のNHK Eテレの番組「趣味どきっ!」は、タイカレーです(確か……)。化学調味料やナムプラーを使わず、すり鉢も使わず、風味豊かでおいしいタイカレーの作り方を紹介します。五右衛門のようにスマート調理でも次元大介のようにクールな調理でもありませんが、楽しんで作ってます。ご覧ください。
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