レッチリ

124.カレーにレッドチリはどれだけ入れられるか? 問題

4人分のカレーを作ろうとレシピを見て、パウダースパイスの分量を確認したとき、「え、うそでしょ?」と思わずつぶやいてしまった。そこにはこう書かれていたのである。

・ターメリックパウダー 小さじ1
・コリアンダーパウダー 小さじ2
・レッドチリパウダー 小さじ3

4人分に対して、ターメリックが小さじ1は納得。コリアンダーが小さじ2は、ホールスパイスや他に使うスパイスも考慮すれば、すんなり受け入れられる量。問題は、最後のひとつである。レッドチリが小さじ3。小さじ3と書いてあるが、「=大さじ1」である。レッドチリ、大さじ1だって!? 激辛カレーになっちゃう……。ちなみに僕は辛いカレーは結構好きだが、それほど辛味に強いほうではない。
パウダースパイスの総合計が小さじ6(大さじ2)というのは、適量と言える。ホールスパイスをいくつか使っている(しかも、チリとペッパー!)ため、総量小さじ8換算でブレンディングする僕のスパイスメソッド(スパイスパズル)的な解釈で言えば、文句なしの分量ということになる。配合は極めて個性的だが、おいしくできるに違いないレシピと言える。具体的にパズルのピースで表せばピースA×1枠分だけが足りないことになる。

・ピースA(小さじ1/2 orホールスパイス枠)……レッドチリホール、ブラックペッパーホール、クミンシード 計3種
・ピースB(小さじ1)……ターメリックパウダー、レッドチリパウダー 計2種
・ピースC(小さじ2)……コリアンダーパウダー、レッドチリパウダー 計2種

雑誌『RiCE』の出版記念トークイベントを開催したとき、同誌のカレー特集でレシピを公開していた埼玉『negombo33』のポークビンダルーを再現しようという話になった。当日、約40~50食分の仕込みをするにあたって、4人分で表記されたレシピを確認したのだ。これ、大丈夫かな……。正直、そう思った。お客さんが食べられないほどの辛口カレーになってしまったら。
まあ、それが後悔されているレシピなのだから、食べられないほど辛ければ辛いでイベントとしては盛上がる、かも。ともかく、他人のレシピだから勝手にアレンジすることなく、表記通りの量でカレーを作った。

さっと茹でて余計な脂を取り除き、大ぶりに切った豚バラ肉の塊をヨーグルトとパウダースパイスなどでマリネする。仕込み場で、マリネされた肉を鍋にあけた瞬間から、レッドチリの香ばしい香りを強烈に感じる。おお、予想通り、辛そうだ。
レシピでは、肉をマリネ液と水と共に1時間ほど煮込むことになっている。その間に別の鍋で玉ねぎを炒めてベースを作る。後半に煮込みスープを少しずつベースに混ぜ合わせてのばしながら、最終的にすべてを合わせ、しばらく煮込む。仕込みの間じゅう、レッドチリの香りに包まれていたのだが、いつの間にか、鼻が慣れてきたせいか、それほどツンとする香りが気にならなくなってきた。

ポークビンダルーは無事、完成した。食べてみると、予想通り、辛い。でも、辛いだけでなく、辛くておいしいのだ。一緒に仕込みをしていたスタッフたちも口々に、「辛い、うまい」を繰り返している。不思議だったのは、僕のモノサシ的にいえば、4人分に「小さじ3=大さじ1」のレッドチリを加えたレベルの辛さではなく、かなり和らいで感じていたということ。なぜかはわからない。
イベント現場には、『negombo33』のオーナーシェフ、山田さんが遊びに来てくれていたので、ライブクッキングでは活躍してもらった。僕は自分のトークの出番が終わった後、料理を続ける山田さんの横に行き、ボソボソ、ブツブツとレッドチリの話を切り出した。

「あんなに入れて大丈夫? と思ったけど、不思議と辛味はそこまで感じませんね」
「そうですよね」
「なぜなんでしょうね?」
「なぜなんでしょうね……」

煮込み時間によるものかもしれないし、酸味が割と強いカレーだから、酸味(酢、ヨーグルト、赤ワイン使用)とのバランスで辛味が和らいでいるのかもしれない。ともかく、4人分で大さじ1のレッドチリを加えても大丈夫なカレーがあることを知ったのは、とても大きな収穫となった。
ま、好みの問題なんだけどね、結局……。

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