13. パクチーは煮るべきか、トッピングするべきか? 問題

最近、パクチーがジワジワと流行っているようですね。僕は大学時代、パクチーが大嫌いでした。あの匂い……。特に口に含むとサクッとした歯ごたえの直後にあの青臭くてたまらない匂いが信じられないほど強烈に駆け巡ります。頭が混乱して自分が何を食べているのかわからなくなる。一時期は、「あれは人間の食べるものじゃない」とさえ思っていました。今は、大好きです。カレーを作るのに使いまくっている。

きっかけは、あるタイカレー専門店でした。店主から、「10回ガマンして食べてみて。11回目からやめられなくなるから」と言われたんです。それは何かとっても魅惑的なキャッチコピーのように聞こえました。だって、10回目まで嫌いだったものが、11回目に突然好きになるんですよ。やってみたい! と思ったんですね。で、我慢して大嫌いなパクチーを食べ続けた。結果、どうなったか。10回目も11回目も印象は変わらなかったような気がします。でも、何回目か忘れましたが、いつの間にか好きになっていたんです。魔法にかけられたようでした。

僕のカレーのレシピは、仕上げにパクチーを加えて混ぜ合わせ、さっと煮るものがよく登場します。その手のレシピのベースはインド料理から来ています。パクチーってタイ料理のイメージが強いですが、インド料理でも頻出するんですね。ところが問題は、「パクチーが嫌い」という人が必ずいるんですね。かつての自分のように。「10回ガマンして食べて」とは言いません。そんな人がいる場合、僕は、パクチーを煮込みの早い段階で加えて長めに煮込むようにしています。ときにはパクチーが入っていることを内緒にすることもあります。すると、嫌いだと言ってたはずの人も意外にも「うまい、うまい」と食べてくれる。

カレーの場合、香りは後半に加えたものほど際立ちます。前半に加えたものほどなじみます。これが鉄則です。僕が提唱しているスパイスカレーの“ゴールデンルール”では、香りを加えるタイミングは、「はじめの香り」、「中心の香り」、「仕上げの香り」と3か所あります。はじめの香りはどことなく感じる柔らかい香りを形成する。中心の香りはその名の通り、カレーの正体を決めるような香りを形成する。仕上げの香りは、最もフレッシュに際立ってカレー全体の風味を押し上げてくれます。だから例えば北インド料理よりもフレッシュな香りを大事にする南インド料理では、スタータースパイスを控えめにして仕上げにテンパリングといって香りを加える手法をとることが多いんですね。パクチーの場合も同じです。パクチーの香りをカレー全体になじませて脇役にさせるなら早めに加えて煮こんでください。パクチーの香りを主役に立てて存分に楽しみたいなら器に盛ってからトッピングしてください。要するにパクチーをどの役割でカレーに使いたいかによって、加熱するかしないか、加熱時間が短いか長いかを決めるんです。

ちなみに根っこつきのパクチーが手に入ったら、根っこは切り落としても捨てないでくださいね。根っこだけみじん切りにして前半に投入して炒めたら、いい風味をカレーに忍ばせることができますから。

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