112.かたまり肉を最も柔らかくする素材は何なのか? 問題

かたまり肉を柔らかくしたいときに有効だと言われているものは、いろいろとある。玉ねぎ、キウイ、ヨーグルト、まいたけ、砂糖、はちみつ、炭酸、酒、コーラ、重層、パイナップル、塩こうじ、いちじくなどなど。
そういえば、僕もタンドーリチキンなどでマリネにヨーグルトを使うときに「これで肉を柔らかくする効果もあります」的なことをこれまで言ってきたような気がする。でも、本当だろうか? とどこかで疑問を持ってもいた。ヨーグルトで肉は柔らかくなるの? 本当に?

アウトドアで料理する機会があったときにいくつかの手法を試してみることにした。選んだのは4アイテム。

A. 玉ねぎのすりおろし
B. 炭酸水
C. プレーンヨーグルト
D. パイナップル

さらにハチミツもチョイスしたが、はちみつについては、A~Dのすべての肉に対して同量を加えることにした。牛肉の塊肉を600グラムずつ4つ準備する。
まず、はじめに頭を悩ませたのは、マリネ時間とマリネ液の量である。炭酸水やコーラについては十数分で効果が得られるという情報もある。一方、タンドーリチキンのヨーグルトマリネは24時間とか48時間がいい、とインド・オールドデリーの老舗店で聞いたことがある。条件は同じにしたいから、24時間、漬けこむことにした。
マリネ液の量については、肉の表面全体がきっちり包み込まれる量ということで、100gに統一した。

次に悩んだのは、塩の塩分濃度とふるタイミングである。通常、焼き肉でもするのなら牛肉600gに対して、0.5%もふれば十分だろうか。ただ、マリネ液に塩が溶け出して薄まる可能性もあるから、少し濃いめに味つけをしておきたい。かなり多めだとは思ったが、肉の重さに対して2.5%の塩をふることに。
そして、タイミングも問題。最近、フランスで出版された肉の調理に関する専門書を読んでいたら、「肉を焼く10分、15分前に塩をふる意味はほとんどない」との記述があった。常温に戻した肉の表面に塩をふってから10分という時間は、肉の表面で塩が溶け出すまでにかかる時間。その後、焼き始めたら、ふった塩はすべてフライパンの中に流れ出てしまう。それなら、肉を焼いている最中に塩をふればいい、という内容だ。肉(特にかたまり肉)の中に塩を浸透させていくことを目的とする奈良、肉の種類や部位、塊のサイズにもよるが、3時間、4時間前に塩をふるべきだ、とあった。「本当に?」と思って4時間前に塩をふった鶏もも肉と10分前に塩をふった鶏もも肉でチキンソテーをしたことがある。圧倒的に前者の方がおいしかった。なるほど。
ということを踏まえると、塩は先にふっておきたい。ただ、24時間前にふった塩はどうなるのだろう……。塩をふって4時間たって、肉の中まで塩が浸透したところでマリネ液に漬けるのがいいのかもしれない。が、そう準備する余裕がなく、塩をふって30分した段階で肉の表面をキッチンタオルでふき取り、それから、マリネ液に漬けこむことにした。

次に悩んだのは、ミックスしたパウダースパイスの香りをまぶすタイミングだ。塩やマリネ液なら肉の中に浸透することは想像がつくが、スパイスの香りが肉の中に浸透するというのは、あまり実感がわかない。以前から、スパイスで肉をマリネすることは何度もあるが、正直いって、その効果について本気で納得できたことはないのだ。
塩と一緒に肉にすり込むのもピンとこないし、100gのマリネ液に混ぜてしまったら肉に香りをつけるというよりマリネ液に香りをつけるのが目的になってしまいそうだ。結局、焼く直前に肉を取り出し、マリネ液をきれいに拭って肉の表面をキッチンペーパーでしっかりふき取った後にパウダースパイスをまんべんなくまぶすことにした。

これで、肉の下準備が完璧に整ったかどうかはわからない。わからないなりに最善を尽くして準備はした。アウトドア本番、炭焼きをしてみる。遠火で時間をかけて外から少しずつ熱を入れていき、最終的には火をほとんど落としてアルミホイルをかぶせ、少し寝かせてからスライスした。ローストビーフのような仕上がりになった。
食べてみると、どれもとてもおいしい。肝心な肉の柔らかさについては、やわらかい順に上からこんな結果になった。

1. パイナップル
2. 炭酸水
3. 玉ねぎすりおろし
4. プレーンヨーグルト

そして、どれも確かに塩だけふって焼くよりもやわらかくなっている実感がある。ヨーグルトに比べてパイナップルの方が明らかに柔らかいかというとそこまでではない。微差と言ってよさそうだ。パイナップルや玉ねぎはタンパク質分解酵素が働き、ヨーグルトは乳酸菌、炭酸水は炭酸水素ナトリウムが効果を発揮するそうだ。
いずれにしても、要するにどのアイテムも肉を柔らかくすることは分かったが、結局、本来の疑問以上にマリネについての知識が足りなさ過ぎて、実験は、不完全燃焼に終わった。
タンパク質を分解する素材ごとに効果を発揮するまでにかかる時間を知りたい。スパイスの香りを肉に漬ける場合の最善策を知りたい。塩の味を肉の中に閉じ込め、マリネ素材で柔らかくし、スパイスの香りをつけるという3つの目的を果たすためのベストな方法を知りたい。
問題解決のために実験したせいで、新たな疑問が次々と生まれ、途方に暮れている。

★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

66

水野仁輔

カレー

2つのマガジンに含まれています

コメント1件

「炭酸水は炭酸水素ナトリウムが効果を発揮するそうだ。」との記述がありますが、ナトリウムを含まない炭酸水(不純物の少ない水に炭酸ガスを充填して作られたもの)でマリネした場合は効果がないということなのでしょうか?
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。