64. スパイスを挽くのに適した道具はミルか石臼か? 問題

むかしからコーヒーが好きだ。20年近く前から自分で豆を挽いて淹れている。デロンギのコーヒーミルを使っていたのだけれど、あるとき、それでスパイスを挽くようになり、当たり前のことだが、コーヒーにスパイスの香りが混ざるようになった。これはいかん、と思い、奮発してもう一台、同じコーヒーミルを購入。ひとつに「coffee」、もうひとつに「spice」と書いてずっと使い分けている。

コーヒーミルでスパイスを挽くとき、問題になるのは、カルダモンやシナモン、チリなどの形の大きいものが歯車に入って行かないことだった。だから、途中からイワタニのミルサーを買ってそちらを使うようになった。これが便利で、どんなスパイスでも粉にしてくれる。そのせいか、あまり意識していなかったことだけれど、ふとあるときに気がついた。そういえば、コーヒーミルで挽いていたときのほうが、香りがよかった気がするなぁ。

あ、今日の話、いつもに増して根拠もなく答えが出ない問題なのでご了承を……。

小さな小さなAIR SPICE Labを構えたからそっちでおいしいコーヒーを飲もうと思ったからだ。自宅からデロンギのコーヒーミル2台とイワタニのミルサーを持ち込んだ。自宅でコーヒー豆が挽けなくなるから、ちょっとケチってデロンギの安価なミキサー式ミルを購入。しくみはミルサーと一緒で180度に開いた2枚の刃が回転して挽くタイプだ。これでコーヒを淹れてみたら、いまいちおいしくない。明らかにコーヒーミルで挽いたときよりも味が劣るのだ。微粉がたくさん出て挽きあがりが美しくないし、これが雑味の原因になっているのかも、と感じた。

自宅はケチったくせに、AIR SPICE Lab用には、高価な全自動コーヒーメーカーを購入してしまった。まだ段ボールも空けていないが、表参道にあるデロンギのショールームで、同社で働く友人に機会の違いと味の違いをレクチャーしてもらった。「カフェジャポネ」というモードで淹れたコーヒーがおいしく、自分で挽いて淹れる時間がないときは、これに限ると思った。あ、いや、ヘタな自分が淹れるよりおいしいのかもしれない。

レクチャーを受けているときに新しい発見があった。僕が、歯車式のミルよりもミキサー式のミルのほうが味が落ちると感じたことを話すと、ミキサー式のミルは、「厳密にはカットしているわけではない」というのだ。高速で回転する二枚刃を豆にぶつけてその衝撃で粉砕しているのだ、と。一方、歯車式のミルは、2つの歯車がかみ合って回転し、ズリズリとやるから僕は石臼のようにすり潰しているのだと思っていたが、あれは、「厳密にいうと切っている」という。歯車についたたくさんの小さな刃が動き、豆を細かく切っているそうだ。僕の感覚でしかないが、コーヒー豆は粉砕するよりも切ったほうがおいしいと思う。

あれ、ここまでコーヒーの話しかしてないな。スパイスのことに触れないと……。

じゃあ、石臼はどうなんだろうか。インドやタイでは、石臼(石板)でスパイスをすり潰しているのをよく目にする。あれがやたらと香り高く感じるのは、現地のスパイスが良質だからだと思っていたけれど、もしかしたら、「すってつぶす」が香りをよくする手段なのかもしれない。適度に食感やテクスチャーにばらつきが出るのも“味わい”と感じるのかもしれないし。

合羽橋の道具街でそば粉を挽くのに使う電動の石臼をスパイス用に使えないか、業者さんと議論したことがあるが、硬いスパイスは粉にしにくいとのこと。おすすめされたのは、業務用のミキサー式ミルだった。確かにインドでもシードスパイスを石臼や石板ですり潰すのは見たことがあるが、あれでカルダモンやクローブ、シナモンがきれいに粉になるとは思えない。また、料理によっては何かしらの水けと一緒にすり、ペースト状にすることもあるから、ホールスパイスを何種類かブレンドして粉にしたいときに石臼は現実的ではないのかな。市場のガラムマサラ屋さんは、電動のミルを使っているけれど、あれが何式のミルなのかを来月のインドで確かめてくるとしよう。

で、結局、どれがいいの? わからない。整理すると、スパイスを挽く手段としては、歯車式のミルで「切る」のと、ミキサー式のミルで「粉砕する」のと、臼式のミルで「すりつぶす」のがあるということになる。トマトを庖丁ですっと切るか、壁にぶつけてベチャッとやるか、すり鉢とすりこ木でゴリゴリやるか、みたいな差なんだろうか。トマトで例えたら余計にわかりにくくなるか。ともかく、自分の感覚的には、石臼はともかく、粉砕するより切ったほうが香りがいいと感じている。コーヒー豆もスパイスも共通しているのかもしれない。

本当のところ、どうなのかは、大手のスパイスメーカーさんとかに納得のいく見解と根拠を示してほしいなぁ。テクスチャーの差や挽くときに発生する温度によるエッセンシャルオイルの状態変化など、知りたいことはたくさん。コーヒーハンターの川島さんに聞いてみようかな。せっかくだから(?)最後もやはり、コーヒーの話で。最近、ようやくコンビニのコーヒーを買うようになった。これまでコンビニでコーヒーを買わなかったのは、仕組みがよくわかっていなかったからだ。レジで注文してカップをもらって自分でマシンの前にいく。どこにカップを置いてどのボタンを押せばいいの? とかを考えるのが面倒だった。ところが、一度やってみたら、なんと便利なこと! ただ、おいしくはないからいつもラテにしてごまかすことにしている。

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水野仁輔

カレー

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コメント3件

以前、ある大地主の高齢の奥様から、昔の石臼で挽いたコーヒーをいただいたのですが、何とも複雑で深い味と香りでした。石臼にはさらに素材や目的に合わせて熟練が必要との事でしたから、そこまで考慮すると実に難しいテーマという気がします。
コーヒーミルでカットする際、対象物がカットされて多面体になればなるほど風味の出かたは良くなり、良質なミルとなります。
3面より8面といった感じで。
プロペラ式だと面が少ない、または全体が均一な面数がないので風味の出かたがバラバラになり、イマイチになりやすいです。
コーヒーに関してだけ言うと、挽き方の良し悪しは粒度の均一さで決まります。
コーヒーは水に溶けうる成分が約28%ありますが、スーパー硬くて複雑な機構をしているため僕らは豆を細かく砕いて表面積を増やして水がコーヒーの細胞を駆け巡ってフレーバーをかき集めるようにしてあげる必要があります。
28%溶かすと苦くて渋いです(過抽出)が、未抽出もしょっぱくて酸っぱくてまずいです。出来ることは、少しでも大部分を適正な抽出の部分にすることなので、より均一に挽いてくれるミルがコーヒーには適しています。今最高と言われているEK43はカット式で、全体で23%を超える抽出をしても過抽出にならずめちゃくちゃおいしくなります。
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