AIRSPICEロゴ遊び

85. スパイスに味つけという作用はない、は本当か? 問題

いちばん好きなスパイスはなんですか? と聞かれたら、答えは時と場合によってめまぐるしく変わる。コリアンダーだったりブラックペッパーだったりカレーリーフだったり。ときにはメースだったりする。
いちばん思い入れのあるスパイスはなんですか? と聞かれたら、答えは決まっている。シナモンだ。シナモンは、僕がスパイスに本格的に興味を持つきっかけをくれたスパイスである。

南インドの山間にあるテッカディというスパイスビレッジを訪れたとき、案内してくれたじいさんが、ある木の前で止まった。青々とした葉を一枚ちぎり、「においを嗅いでごらん」と言って僕に渡す。僕はそれを手に取ってちょっと手で揉み、花に近づけると強烈に甘い香りがした。シナモンの香りである。
木の葉っぱからシナモンが香ることが衝撃的な体験だった。シナモンの木なんだから当たり前だろう、と思うかもしれない。でも、当時の僕にとってシナモンは、木の皮をはいでくるっと丸めたスパイスという認識だったから、生の葉から同じ香りがするイメージがなかったのだ。

そうか、スパイスって植物なんだ。

木の皮とその木の葉から同じ香りがすることだってある。あたりまえのことをあたりまえのように感じたとき、僕は「スパイスって面白い!」と独りおおげさに興奮したのを思い出す。あのできごとがあって僕はスパイスの世界に急速に吸い込まれていった。
AIR SPICEのサービスを始めるとき、ロゴマークをシナモンリーフのイラストにしたのは、そんな体験がもとになっている。

スパイスの最も大きな作用は、「香りをつけること」である。大事なのは、「味をつける」という作用がないこと。スパイスを料理に加えたらスパイスの味がつくのではなく、スパイスの香りがつく。その香りが素材の味を引き立てる。それがスパイスを使う目的である。
本や料理教室や色んなところで僕はそう言っていた。僕はそう認識している。スパイスには呈味がある。口に含めば何かしらの味わいがあることはある。が、それは例えば塩や味噌やしょう油のように料理の味を決めるほどの影響力は持たない。すなわち味はあるけれど味はつかないのだ。

嘘だと思えば試してみればいい。スパイスを鼻に近づければ、どのスパイスからもすばらしく個性的な香りがする。でも口に入れてもぐもぐしたら、ほとんどの場合、感じるのは雑味や苦味だろう。香りはいいけれど、おいしいものではない。
ところが、この僕の中の定説を覆してくれたのが、またもやシナモンだった。スリランカのシナモン(通称セイロンシナモン)を噛んでみたときのことだ。なんと、味がする。しかも甘くておいしい味がするのだ。これがスパイスに関して僕が受けた二度目の衝撃だった。

他の産地のシナモンではこの体験をしたことはない。今年の2月に行ったスリランカでは、シナモン名人のじいさんの仕事を目の当たりにし、僕は何度も“おいしいシナモン”を食べた。スパイスは本当に魅力的で面白い。
2月のスリランカを現地で案内してくれた神戸のスリランカ料理店「カラピンチャ」の濱田くんと対談をした。シナモンをはじめとするスパイスの魅力について。今月末に大阪で行われるトークイベントに関連したものだが、イベント詳細や対談記事は別途どこかでお知らせしたい。

スパイスに味付けという作用があるのか、という問題については、僕の解釈は、やはり「ない」というものだ。シナモンも例外ではない。あれほど甘くておいしい味わいを持つシナモンであっても、少なくとも作る料理がカレーであるという前提に立てば、カレーに影響を与えるほどの強さはない。
ただ、シナモンが入ると入らないではまるで香りの違うカレーができあがる。シナモンの香りが素材の味わいを引き立て、そのカレーをおいしくする。味はつけないが味を引き立てる。だから、スパイスは使い方次第で、どんな素材、どんな料理とも仲良くできるのだと思う。

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