マッサマン

110.マッサマンカレーは本当に世界一うまいのか? 問題

CNNインターナショナルが「世界のおいしい料理ランキングベスト50」みたいなものを発表したのが、2011年のことだったようだ。そのときに堂々の1位に輝いたのが、タイのマッサマンカレーだった。そのため、一部で知名度がグンと上がり、都内のタイ料理店でもマッサマンを新たにメニューに加える店が急増した記憶がある。
当時、僕には全く興味のない話題だったのでスルーしてしまったが、「本当に世界一うまいのか?」問題は、きっと勃発しただろうし、「そんなの、豚肉の生姜焼きとかさぬきうどんの方がうまいに決まってるだろ~!」みたいな声(すみません、水野の完全な私見です)も出たことだろう。
8年も経てばすっかり鳴りを潜め、この話題は誰も触れなくなった。リバイバルもなければ、オールディーズとして再評価されそうな気配も今のところはない。だからこそ、天邪鬼な僕は、そろそろ、ちょっと考えてみようかな、と思ったのだ。

タイに行った。目的は、チェンマイでミャンマー式カレー、ゲーンハンレーを食べることだったが、さらにベースにある目的は、いつものように「カレーとは何か?」を突き止めるため、である。
去年、ミャンマーに行ってオイル煮的なカレーをいくつも体験したから、その影響を受けてタイ北部料理のひとつとなったカレーには興味があった。ただ、マッサマンカレーだって、同じく、タイのハイブリッドカレーなわけだから、と今回、いくつか食べてみた。
タイカレーの中では、辛すぎず甘く濃厚でパンチ力のある味わい。作り方は無数にあるのだろうけれど、取材したところ、代表的な材料は、以下のようなラインナップである。

ココナッツミルク、鶏肉、じゃがいも、玉ねぎ、ホールスパイス(サイアムカルダモン、ベイリーフ、シナモン)、ココナッツクリーム、カレーペースト(コリアンダーシード、クミンシード、クローブ、サイアムカルダモン、シナモン、ホワイトペッパー、フレッシュレッドチリ、玉ねぎ、にんにく、しょうが、フレッシュレモングラス、シュリンプペースト(カピ)、ローストピーナッツ、パームシュガー、タマリンドジュース、フィッシュソース(ナンプラー)、塩

 このままだと、何がどう香りや味わいに貢献しているのかがわかりにくいので、ゴールデンルールのプロセスに当てはめて分類してみる。

1. はじめの香り……ホールスパイス(サイアムカルダモン、ベイリーフ、シナモン)
2. ベースの風味……玉ねぎ、にんにく、しょうが、
3. うま味……シュリンプペースト(カピ)
4. 中心の香り……コリアンダーシード、クミンシード、クローブ、サイアムカルダモン、シナモン、ホワイトペッパー、フレッシュレッドチリ、フレッシュレモングラス
5. 水分……ココナッツミルク、ココナッツクリーム、タマリンドジュース
6. 具(隠し味)……鶏肉、じゃがいも、玉ねぎ、ローストピーナッツ、パームシュガー、フィッシュソース(ナンプラー)
7. 仕上げの香り……なし

マッサマンと他の代表的なタイカレーとの大きな違いは、ドライのホールスパイスを多用する点にあると思う。フレッシュスパイスをすりつぶしてカレーペーストを作り、それが風味の土台となるのがタイカレーの特徴だが、それに加えて、まるでインド料理のようなホールスパイスが顔をのぞかせる。
すごく大雑把に言ってしまえば、インド料理とタイ料理のハイブリッド。やはり、ハイブリッドするとカレーの味わいは、ある点において大幅に深みを増す。そして、料理としてのおいしさを担保しているのは、ゴールデンルール上は「うま味」や「隠し味」として分類している以下の要素だと思う。

シュリンプペースト、ローストピーナッツ、パームシュガー、フィッシュソース

ここにインド料理のように油がたっぷり入ったら最強かもしれないな。そう考えてふと思い出したのが、去年、インドネシアの家庭で教えてもらった“カリーメダン”だ。あれは、油でホールスパイスを炒めてからフレッシュスパイスのペーストを加え、ココナッツミルクと隠し味たちと鶏肉をぐつぐつと煮込んでいた。おまけにいえば、「アジノモト!」とお母さんが連呼していたから、顔ぶれだけはドリームチームのような無敵のカレーである。
実際、タイのマッサマンカレーよりも、インドネシアのカリーメダンのほうが後を引くおいしさがあったが、それは「油」と「アジノモト!」の威力だろう(CNNさん、来年あたり、カリーメダン、どうですかね?)。
この2つのカレーは、ルーツが同じところにあるか、ハイブリッドのプロセスが酷似しているんじゃないか。

で、結局、マッサマンは世界一おいしいのか? 問題については、答えは出せない。そりゃそうだ。好きか嫌いかなんて、人それぞれなんだから(一番盛り下がる結論ですよね……)。個人的には全体のバランスというか、音楽でいう“ハーモニー”の部分が物足りない。世界100位以内なら入っているかもしれないなぁ。ただ、あのカレーの料理としての成り立ちへの興味は尽きない。もっと経験を積んで、より深く掘ってみたいと思う。
豚肉の生姜焼きはトップ10入りだけどね(しつこい……)。

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