114.足し算と引き算、カレーをおいしくするのは? 問題

秋葉原で開催された「dancyu祭り」というイベントで、カリーソルジャーのメンバーが「半熟レバー入りチキンカレー」を作った。7種類のパウダースパイスをミックスしたカレー粉に2種類のブイヨン、香味油、そして、具に鶏肉とレバーを使ったもので、うまかった。
2日目にまた同じメニューのカレーを20食、佐藤ソルジャーは作ってくれたのだが、同じことを繰り返したくない性格なのか(だとしたら僕と一緒だ……)、初日のカレーからアレンジを加えてきた。簡単なコメントが彼から来た。

「昨日のものに玄米黒酢とたまりと鰹、椎茸、昆布、煮干しの合わせ出汁を加えてます」

やり取りの中で何度か「超うまい」と本人が自信をのぞかせていたカレーは、確かにうまかったが、僕は初日の方が好きだった。
それで考えたことがある。佐藤ソルジャーは、おいしくなる要素(素材)を足し算して作っていった。に本人としては、より美味しくなっていく印象があったはずだ。でも、僕は、足したものよりも引いたもののほうがおいしいと思った。

カレーを作るときは「おいしくしすぎないように」と心がけている。「おいしすぎて何が悪いの?」と思う人が多いと思うが、好みとポリシーの問題だから、いい悪いではない。とにかく僕はそういう味が好きなのだ。少し足りない味のカレー。少し足りなくなっちゃったのではなく、(意図的に)少し足りなくしたカレーが好きだ。
カレー作りにおいて最も大事にしている「きっちりと火入れしてメリハリをつける」ことだけは妥協しない。その上でカレーをおいしくしすぎないようにないようにするために最も僕が頻繁に取る手法は、「水でのばす」というものだ。水でのばせばほとんどの料理は味が薄まる。だから僕は味を薄めたくなる。
この「水でのばす」という手法の反対は「煮詰める」である。これとは別に「材料を足し引きする」というものがある。佐藤ソルジャーが2日目によりおいしくカレーを作った時に用いた手法だ。すなわち、カレーを作るときの設計としては以下のパターンに分けられる。

A. 材料を足し煮詰める……プラス&プラス
B. 材料を足し水でのばす……プラス&マイナス
C. 材料を引き煮詰める……マイナス&プラス
D. 材料を引き水でのばす……マイナス&マイナス

濃い味のものは、多くの人が「おいしい」と感じるわけだから、それをプラスとすれば、材料を足すのはプラス、煮詰めるのは「水分を引く」ことなのに味は濃くなるからプラス。逆に材料を引くのはマイナス、水でのばすのは「水分を足す」ことなのに味は薄まるからマイナスとなる。ちょっとややこしい。
プラマイゼロみたいな表現がある。「あいつさ、格好いいのに性格悪いからプラマイゼロだよね」みたいな。そういう意味では格好いいけど性格悪いのも、格好悪いけど性格いいのもヒトとしては残念みたいなことを言われるのかもしれないが、カレーの世界はそうではない。
足してのばしたBも引いて煮詰めたCもどちらもおいしいからだ。足して煮詰めたAはたいていの人がうまいという味になるが、僕は僻みっぽい性格のせいか、個人的には「格好よくて性格もいいなんてイケスカナイ!」ということで、Aのカレーはあまり好きになれない。自分ではできるだけ作らないようにしている。それが、「おいしくなりすぎないように」というチェックポイントにつながっている。カレーを人間で例えるのもどうかと思うが、行きがかり上、整理しておこう。

A. 材料を足し(格好いい)煮詰める(性格いい)……プラス&プラス
B. 材料を足し(格好いい)水でのばす(性格悪い)……プラス&マイナス
C. 材料を引き(格好悪い)煮詰める(性格いい)……マイナス&プラス
D. 材料を引き(格好悪い)水でのばす(性格悪い)……マイナス&マイナス

人間は見た目よりも中身が大事だ。それはカレーは材料よりもテクニックだ、ということと同義だろうか(きっと違うね)。僕自身がカレーを作るとき、材料の足し算はできるだけしない。必然的にCかDのカレーを目指すことになる。たくさんの人に食べてもらうとき、多くの人に「まあまあおいしいね」と言ってもらいたいときは、Cのカレーを目指して作ることが多い。でも、本当に僕が作りたいカレーはC’(Cダッシュ)である。材料を引いて(格好悪い)、適量の水加減(性格普通)。
ときどきDを作りたくなるから危険だ。「水野のカレー、たいしたことなかったよ」とか「全然おいしくなかったよ」とか言われてしまうかもしれない。格好悪くて性格も悪い自分を愛してくれる誰かがいたら、なんと素敵なことだろうとは思うけれど、なかなかその勇気は出せないかな。この話、結局、わかりにくいことになっちゃったなぁ。

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水野仁輔

カレー

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