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95.フルーツヨーグルトでタンドーリチキンはありか? 問題

タンドーリチキンってのは、どうしてあんなにうまいんだろう。毎年インドへ共に旅をしている東京スパイス番長のメンバーとは、たまにそんな話になる。僕たちは、インドのどの地域へ行こうとも、初日の夜は、たいていタンドーリチキンのあるレストランに入って食事をする。食紅で真っ赤になったタンドーリチキンを食べてビールを飲みながら、「これさえあれば、他のインド料理はいらないね」なんて冗談を言い合ったりする。

タンドーリチキンは、タンドール(インドの窯)で焼いた鶏肉だから、僕の場合、自宅にあるタンドールで焼けばタンドーリチキンだが、オーブンで焼けば、タンドーリ風チキンになる。ま、そのあたりはどっちでもいいのだけれど。インドでどうやって作るのかは別として、僕の好きなタンドーリチキンにはいくつかのポイントがある。

いちばん大事なのはスパイスのブレンドだけれど、それは話すと長いので割愛するとして、たとえば、炭火で焼くとおいしい。スモーキーな香りがたまらない。マリネ液に少しだけマスタード油を加えるとおいしい。風味が重層的になる。水切りヨーグルトを使うとおいしい。マリネ液の水分が少ないから焼いた後の肉の表面に風味が定着しやすいからだ。同じ目的でトマトピューレの代わりにトマトペーストを使うのもおいしい。

僕はやりたくないが、トマトペーストの代わりにトマトケチャップを使うとおいしいという人が増える。粉チーズを加えても増える。ハチミツや砂糖を加えても増える。要するに乳製品と甘味が増強されることでこの料理は多くの人を魅了するということだろう。それならば、やってみたいことがあった。プレーンヨーグルトの代わりにフルーツヨーグルトを使ってマリネする手法である。果たしておいしいタンドーリチキンとして成立するのだろうか?

ずいぶん昔からこの疑問は持っていたのだけれど、きっとそれなりにおいしくなるだろう、くらいのことであまり踏み込んではいなかった。ところが、ツイッターで同じ質問が来たため、実際にやってみるか、と思ったのである。せっかくなので、ダノンのフルーツヨーグルト(いちご/柿&梨/白桃&黄桃)、コンビニのPBヨーグルト(ミックスフルーツ/キウイ)の5種類を仕込んでみることにした。

材料は、皮を取り除いた鶏もも肉(500g)、ヨーグルト(70g)、ミックススパイス(10g)、塩(2.5g)、紅花油(3g)でマリネする。フルーツヨーグルトの味を顕在化させるために、にんにく、しょうが、トマト類は使わない。24時間マリネして炭火で焼いてみた。うまいかどうかは個人差があるとは思うが、僕の感想としては、こんな結果である。

柿&梨……◎、白桃&黄桃……○、キウイ……△、ミックスフルーツ……×、いちご……×。ものによっては普通においしいタンドーリチキンになったのだ。フルーツヨーグルトいちごの原材料を確かめてみると、「乳製品、糖類(砂糖、転化糖)、ストロベリー果肉、乳たんぱく、ゼラチン、デキストリン、野菜汁・果汁混合物、増粘剤(加工でんぷん、増粘多糖類)、香料、酸味料、乳酸カルシウム、ビタミンD」とある。主な構成要素は「乳製品」と「糖類」だから問題はなさそう。次に使用量の多い「ストロベリー果肉」が問題になりそうだ。そのほかは似たようなものが入っている。

そう、フルーツヨーグルトでタンドーリチキンがおいしくなるかどうかは、合わせるフルーツの風味次第で変わるということになる。柿や梨、桃はあり。でもいちごはなし。キウイは微妙、ということになる。カレーの隠し味に使えるフルーツ(もしくはフルーツジャム)が何かというのに近い。今回は試作していないが、ブルーベリーやオレンジ、マンゴーはあり、バナナは微妙、スイカはなし、みたいなところだろうか。

想定の範囲内という結果で、残念ながらあまり盛り上がる実験にはならなかった。わざわざフルーツヨーグルトを使う理由はなさそうだ。プレーンヨーグルトと上質なフルーツジャムを混ぜたほうがはるかにおいしくなるはずだから。ただ、マリネという手法には謎めいた魅力があるから、別の意味で効果がありそうだ。

「このタンドーリチキン、おいしいー!」
「そお? ありがとう」
「どうやって作ったんですか?」
「フルーツヨーグルトでね、マリネしたのさ」
「え~!? 意外~!! すご~い!!!」
 とはならないか……。

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