34. マスタードをカレーに使う狙いはどこにあるのか? 問題

韓国に来ています。韓国のシェフとコラボした商品開発のために、AIR SPICEのライブクッキングパーティをしました。何種類かのカレーを作った中に、ホールのブラックペッパーを他のスパイスと一緒に挽いて豚肉とマリネするカレーがありました。韓国は、レッドチリ(唐辛子)料理が盛んなので辛い料理には慣れていると思っていましたが、ひとり、「うまい、うまい」と言いながら異様なほど蒸せている韓国スタッフがいました。

ブラックペッパーの辛み成分は、ピペリン。レッドチリの辛み成分は、カプサイシン。辛さの種類が違うんですね。その点でいえば、マスタードは、もっと違います。ブラックペッパーとレッドチリが舌がビリビリして口の中がカッカッと辛くなるホット系の辛さなのに対して、マスタードは、鼻がツンとして涙が出てくるようなシャープ系の辛み。ワサビなんかに近いんです。マスタードの辛み成分は、p-ヒドロキシベンジルイソチオシアネートというものだそうです。

ところで、カレーの辛みについて考えたとき、昔から疑問に感じていたことがふと頭をよぎりました。ホール(丸のまま)のマスタードシードをカレーに使う意味は、どこにあるんだろうか? と。ディジョンマスタードのようなすり潰したマスタードなら独特の辛みや風味を楽しめます。でも、マスタードシードを油で炒めて(テンパリングして)、カレーに加えたときにマスタード本来の辛みや風味を感じたことはあまりありません。

南インド料理では、スタータースパイスとして、仕上げのスパイスとして、かなりの頻度でマスタードシードが登場します。油を熱してマスタードシードを加え、パチパチはじけ始めたらふたをしておさまるまで待ってから、次に進む。「マスタードシードは他のホールスパイスよりも火が通りにくいから先に入れましょう」みたいなことが普通に言われているし、僕も妄信的にそう表現してきました。でも、本当にそのやり方でいいんだろうか? とモヤモヤした疑問がぬぐえません。

マスタードの辛み成分は、レッドチリやブラックペッパーに比べて熱に弱い性質を持っています。同じくシャープ系のワサビは基本的に加熱せずにすりおろして使うことを考えたら腑に落ちると思います。熱に弱いマスタードを火が通りにくいからといって、高温で加熱していいんでしょうか。熱したフライパンにふたをしたら中の油はかなりの高温になっているはずで、マスタードの精油成分は揮発しきってしまうんじゃないかと思います。

結果、そうやってマスタードを加えたカレーにマスタードらしさは付加されない。ただ、こんがり加熱されたマスタードの表面から香味が生まれるため、それをカレーに加えるのが狙いなのかもしれません。マスタードをテンパリングしたカレーはたしかに芳ばしくておいしいですから。ただ、それならマスタードを使う必要はないのかも。何か別のもので、例えばもっと表面積の広いスパイスなり食材で香味を加える方法がありそうです。

カレーにおけるマスタードの正しい使い方は、もっと議論されるべきかもしれません。誰か知っている人がいたら教えてください。そこに答えが出ない限り、インド料理にマスタードを使う狙いは、「本格的っぽく見せる」とか「南インド料理然とさせる」ことなのかもしれませんね、今のところは。

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