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31. どこへ行けばうまいカツカレーに出会えるのか? 問題

「餅は餅屋」と言う。が、餅屋で餅を食べたことはない。故事ことわざ辞典によれば、「何事においても、それぞれの専門家にまかせるのが一番良いということのたとえ。また、上手とは言え素人では専門家にかなわないということのたとえ」とある。カレーの世界において、本当に素人が専門家にかなわないのか? 問題については別の機会に書くとして、それぞれの専門家にまかせるのが一番、というのは、その通りだと思う。

「トンカツはトンカツ屋」、「カレーはカレー屋」。だいたい頷ける。じゃあ、「カツカレーは何屋へ行けばいいの?」と疑問が沸いてくる。こういう疑問は、普通は沸かないものなのかな。僕は知りたくて仕方ない。なぜならカツカレーが大好きだからだ。おいしいカツカレーを食べたい。そんなとき、僕はどこへ行けばいいのだろう? 

昔からずっと好きなカツカレーは、町田にある「リッチなカレーの店 アサノ」のカツカレーだ。カレー屋のカツカレーになる。かつて出版したガイド本で、「カツカレーの世界遺産にしたい店」とかなんとか、大げさなことを書いた記憶がある。でも、いまだにカツカレーはあそこが一番好きかもしれない。高座豚を揚げたトンカツにさらりとスパイシーなカレーがよく合う。

カレー屋のカツカレーを食べる場合、カレー屋なんだからカレーがうまいのは約束されている。問題はカツのほうだ。カツカレーを専門的に出す店でない限り、カレー屋でトンカツを揚げる設備や準備はどうしてもおざなりになってしまう。

逆のことはトンカツ屋のカツカレーにも言える。トンカツがうまいのは約束されているが、カレーの方は……。トンカツ屋は丁寧にカレーを仕込む余裕はないし、その技術を習得するのも難しい。必然的に業務用のカレーソースに頼るケースが多くなる。人気のトンカツ専門店がカツカレー専門店を出すような例も出てはきたが、なんとなく触手も食指も動かないのは、カレーの部分への期待が高まらないからなのかもしれない。きっとそこには“揚げ師”はいても“カレー師”はいないだろう。

カレー屋におけるカツカレーも、トンカツ屋におけるカツカレーも端っこにこっそりあるようなメニューである。「食べたい人のために一応、ラインナップに入れておきました」的な料理だから、完成度を追求するのは大変なのだろうか。なんとかして二兎を追うことはできないだろうか。

元祖カツカレーの店は、「河金」だと言われていて、今は存在しない。カツカレーを元祖と自称しているかどうかは別として、銀座「グリルスイス」はカツカレーを名物メニューにしている。が、僕の好みとはちょっと違う。あ、それで思い出した。銀座の老舗洋食店「煉瓦亭」のカツカレーは好きだ。銀座「みかわや」のカレーも好きだけど、あそこへ行ってチキンカレーライスにチキンカツレツをのっけて自分でカツカレーに仕立て上げようとすると、5000円を越えるのが難点だ。カレーの街、神保町の「キッチン南海」のカツカレーもうまい。これまで何度食べたかわからない。

大阪には、「元祖とんかつカレー」を自称する店、「カツヤ」がある。あそこのカツカレーは好きだ。「カツヤ」はトンカツ屋ではない。メニューにはカツカレー以外のカレーがずらり。僕は昔からカレー専門店だと認識していて、「カツヤというカレー屋なんて、不思議な存在だな」と思っていたが、色んなグルメサイトを見てみると、ジャンルのところは、「カレーライス/洋食」と書いてある。

考えてみれば、カレーもトンカツもニッポンを代表する洋食だった。どちらにも手を抜かない精神は、トンカツ屋でもカレー屋でもなく洋食屋にある。餅は餅屋、トンカツはトンカツ屋、カレーはカレー屋、カツカレーは洋食屋。これが正解なのかな。いつか“揚げ師”と組んでカツカレー屋を開きたい。「カツカレーはカツカレー屋」と言ってもらえるようなお店を……。

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