12. 辛いカレーを甘くすることはできるのか? 問題

辛いものが苦手です。辛いカレーを甘くすることはできませんか?

ときどき聞かれる質問です。東京カリ~番長で複数種類のカレーを出すイベントでも、「辛くないの、どれですか?」と必ず誰かに聞かれます。だから、辛くないカレーを必ず1種類は準備するようにしています。辛みには様々な種類があります。黒こしょうのジワリと効く辛み、マスタードのさわやかな辛み、わさびのツンとくる辛み……。中でもカレーの場合、最もメジャーで強烈なのは、唐辛子(チリ)のピリピリくる辛みです。辛みは舌の上の味らいで感じる味覚ではなく、痛覚です。すなわち基本4味(甘味・酸味・苦味・塩味)とも違うし、第5の味覚(うま味)でもない感覚。

チリが持つカプサイシンを摂取すると「辛い!」という痛みに近い感覚だけでなく、「アドレナリン」が体内に分泌され、興奮状態になります。同時に、「エンドルフィン」が体内に分泌され、すっきりした気分にもなる。辛い物が好きな人はこれらの反応がやめられなくなるんですが、もちろんダメだという人もいるんですね。だから、冒頭の質問になる。でも、残念ながら、辛いカレーから辛味を抜く方法はありません。辛味の強さをおさえるためには、辛味が出るスパイスを使わないようにするしかない。

あとは、マスキングすることで、印象として辛味を“感じにくくさせる”方法はあります。チリの辛みのもとであるカプサイシンは脂溶性で、水には溶けにくい性質を持っています。だから辛いからと言って水をガブガブ飲んでも、あまり効果はない。逆効果だったりもします。牛乳やヨーグルト、生クリームなどの乳脂肪分はオススメです。アイスクリームやマヨネーズなどもいい。また、ショ糖溶液やクエン酸溶液などでも緩和をすることができるので、はちみつや砂糖、フルーツ、酢、レモン汁などを調理過程で加えれば、食べたときに感じる辛味は幾分かやわらぐかもしれません。食べるときに生卵を混ぜ合わせる方法もマスキングの 手法の一つですね。

ただし、マスキングは覆い隠すことですから、辛味を感じにくくすることはできても辛味を消すことができるわけではないんです。たとえば辛いカレーに甘味を加えたら甘辛くなることはあっても、辛くなくなることはない。すなわち、カレーの辛味に関するQ&Aはこうなります。

Q. 辛いカレーを甘くする方法は? A. あります。甘味を加えればいい。

Q. 辛いカレーを辛くなくす方法は? A. ありません。できないんです。

辛いと甘いは本来、別のモノサシなんです。このことに気が付いていない人は多い。市販のカレールウの辛さ表示やレストランのメニューの辛さ表示に「甘口・中辛・辛口」という言葉が一般的に使われています。これはよく考えたら不思議な現象です。「甘い~辛い」は、グラデーションにはならない。甘みを弱めたら辛くなくなるわけじゃない。辛味を弱めたら甘くなくなるわけでもない。すごく甘く、かつ、すごく辛いカレーも存在する。逆に全く甘くも辛くもないのにおいしいカレーは世に溢れています。「中辛」がそれを指すかというとそういうことでもないんですね。「中辛」なんていう概念はヘンテコで、特に興味深いですが。いっそ、「甘辛口」っていう尺度を作ったらいいんじゃないでしょうか? 「それを待ってた!」って人が結構いたりして。

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