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43. カレーパンは焼くより揚げたほうがうまいのか? 問題

カレーパンといえば、もともとは揚げたものが一般的でした。ところが、ここ数年は、焼きカレーパンが増えています。かつて「うっとりカレーパン」という書籍を出版したときに200軒以上のカレーパンを食べ比べましたが、4割ほどは焼きカレーパンだった記憶があります。理由は、ヘルシー志向のお客さんが増えているから。確かに揚げたカレーパンは少し胃に重い印象があるかもしれません。とはいえ、食べやすいかどうかといおいしいかどうかは別問題ですね。
個人的な感想でいえば、カレーパンは焼くより揚げたほうが圧倒的にうまいと思います。おそらく適度な油をまとってカリッと揚がった衣とカレーソースとの相性がいいのが理由なんじゃないか。カツカレーがおいしいのと同じですね。豚肉をトッピングするだけならポークソテーカレーでもいいのだけれど、トンカツカレーにしたほうが断然うまい。違いは揚げた衣にある。まあ、好き嫌いは個人差があるので議論する意味はあまりありません。
それよりも、大事なことがあります。それは、「カレーパンは揚げたてがうまい」ということです。これを教えてくれたのは、千葉県松戸市にあるパン屋さん、「ツォップ」の伊原さんでした。パン好きの聖地とまで言われ、遠方からおびただしいお客が押し寄せるこのパン屋さんには、100種類とか200種類(?)とかのパンがひしめき合うように売られています。ここでカレーパンの取材をしたときのこと。伊原さんが店のカレーパンで最も自慢したいのは、「常に揚げたてをお客さんに販売できる仕組みを作ったこと」でした。
数々のカレーパンの取材をしてきましたが、フィリングのカレーや生地の作り方についてこだわりを話してくれたシェフがほとんど。当たり前のことだと思います。ところが、彼は、そのどちらにも触れず、声を大にして「調理場の仕組み」を語ってくれたんです。フル回転する調理場でカレーパンを常に揚げたてで店頭に並べられるようにするのは至難の業です。カレーパンの本質がなんなのかを僕は伊原さんに教えてもらいました。
今夜、NHK-Eテレ「趣味どきっ!」では、カレーパンを紹介します。番組に登場するパン屋さんは、三軒茶屋の「ブーランジュリ・シマ」です。シェフの島くんは、長い間、カレーパン作りに試行錯誤してきました。焼きカレーパンを前提に生地やフィリングのカレーの開発に余念がなかったんです。ところが最終的に彼がたどりついた結論は、「カレーパンは揚げたほうがおいしい」、そして、「揚げたてを食べるのが一番おいしい」。そう、伊原さんと同じでした。現在、「シマ」では、お客さんの注文があってからカレーパンを揚げるスタイルを取っています。
この結論にたどり着き、揚げたてを販売するサービスを開始することにした、と告知したFacebookの記事に真っ先に「いいね!」を押したのは、「ツォップ」の伊原さんだったと教えてもらいました。この話の手前にはもう少し長いストーリーがあるのですが、僕はこのエピソードを聞いたときになぜか泣きそうになったことを今もよく覚えています。物事はさまざまな角度から捉えられるから価値は一つではない。でも、本質的に大切なことはきっとひとつなんだと思います。常にそれを見極めようとする姿勢を持っていたいと強く思いました。カレーパンとふたりのシェフに僕はそれを教えてもらったんです。いまもそれを常に教訓として心にとめています。
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