マリネ問題

104.マリネ時間が長いとカレーはおいしくなるのか? 問題

レシピを書くとき、実は、数多くの前向きな妥協をしている。「本当はスパイスを7種類使いたいのだけれど、3種類にしておこう」とか、「本当は60分煮込んだほうがいいけれど、45分にしておこう」とか、「本当は別のフライパンで焼いてから加えたほうがいいけれど、生のままで投入にしておこう」とか。
自分で作るなら理想的なプロセスで作るけれど、本にするなら読者にとってストレスがないほうがいい。かといって簡略化しすぎておいしくなくなるのも困る。そのバランスにいつも悩みながらアウトプットしている。
そんなもののひとつにマリネ時間がある。たとえば、プレーンヨーグルトとスパイス、塩、にんにく、しょうがをボウルで混ぜ合わせ、鶏もも肉を加えて揉み込み、マリネする。マリネ時間には、たいていこう書く。

・冷蔵庫に入れて30分ほど(できれば2時間)マリネする。
 
もうちょっと攻めてもいいかな、と思うときには、こう表記する。

・冷蔵庫に入れて2時間ほど(できればひと晩)マリネする。

要するに、30分よりも2時間のほうがいいし、2時間よりもひと晩(6~12時間)のほうがいいと思っているわけだ。
かつて、インド・オールドデリ―で、タンドーリチキン発祥の店と呼ばれる「モティ・マハール」を取材したとき、「鶏肉のマリネ時間は48時間がベスト」と言われたことをよく覚えている。確かにヨーグルトやスパイスが肉の中に浸透するには時間がかかるのだろうから、長ければ長いほどいいのだろうと理解している。
だから、僕は、「48時間までは長ければ長いほどいい」という解釈をしている。ただ、本当にそうなんだろうか? 前からそのことには疑問があった。最近、AIR SPICE のユーザーの間で、「AIR SPICE LAB」という料理研究ぴプロジェクトがスタートした。出来上がるカレーについて正解の味を知りたいというユーザーが集まって、その月のテーマのカレーをみんなで作る。僕も参加してどう作るのがいいのかのアドバイスをしたり、よりよいレシピを検証したりしている。
ドライリーフチキンカレーを作る会があり、マリネをするレシピだったから、かねてから疑問に思っていたことを実験することにした。テーブル4卓を使って調理できる環境だったため、以下の4パターンを試作検討することになった。

A. マリネ ほうれん草カット
B. マリネ ほうれん草ペースト
C. マリネなし ほうれん草カット
D. マリネなし ほうれん草ペースト
 
AとBは、前日にマリネをしたから、マリネ時間は24時間。CとDは、当日、調理を開始してからマリネをしたから鍋に投入するまでのマリネ時間は、およそ30分である。ほうれん草の処理については割愛。16人で4人ずつチームになって試作し、全員で試食した結果、どれが一番おいしかったか? のアンケートを取ると、「A……6票、B……10票、C……0票、D……0票」という結果だった。
たった16人の感応テストとはいえ、結果は明らかだ。マリネ時間は長いほうがおいしくなる。後日、AIR SPICEのペッパーチキンカレーをイベント用に作った時、48時間マリネに挑戦した。こちらは、他のマリネ時間との比較はなかったが、おいしいカレーになった。マリネ時間は長ければ長いほどいい。僕の中ではひとまずそう結論づけよう。
今年の新刊には、「マリネ時間は48時間がベスト」と書こうかな。ただ、3日間マリネ、1週間マリネなどについては検証していないので、いつかやってみたいと思っている。

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