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127.トマトと乳製品はどちらのうま味が強いのか? 問題

第三の男、ならぬ、第三のうま味が見つからなくて、長いこと悩んでいる。
カレーにうま味を加えようと思ったとき、僕はほとんどの場合、トマトかヨーグルトになる。ゴールデンルールの3番目にあたる「うま味」の部分にはこのどちらかが入る。新刊「スパイスカレーを作る」でカレーメソッドを提案したとき、“あっさり系”と“こってり系”と“スタンダード系”の3パターンの手法を出そうと思った。そこで、手が止まった。
うま味のバリエーションが足りないからだ。単にカレーにうま味を加える手法というなら無数にある。でも、ゴールデンルールで3番目にあたる、うま味、そのタイミングでトマトやヨーグルトの代わりに入れるべき要素が見つからない。あれこれ悩んだ挙句、ベジタブルペーストを使うことにした。これも悪くはなかったけれど、市販されているものではないから、ちょっと手間がかかるのが難点。以来、悩みは抱えたままである。

第三のうま味については答えが見つかりそうもないからいったん放置するとして、そもそも、トマトと乳製品はどちらがカレーのうま味を強めるのに貢献しているのかを知りたくなった。ちょうど週末に250食のカレーを作る機会があった。125食ずつ2種類のカレーを作ることにして、ひとつをトマトのうま味カレー、もうひとつを乳製品のうま味カレーにする。
メインの具はチキン。それ以外の材料は極めてシンプルに設定。玉ねぎ、にんにく、しょうが、塩、スープ、鶏肉以外は使わない。スープはがらのかわりにぼんじりが手に入ったので、水から長時間煮込んでスープにした。隠し味的なものは一切使わない。

トマトはトマトピューレ、乳製品はプレーンヨーグルトにする。共に800gを購入。ただ、トマトピューレについては、「3倍濃縮」のため、同量のプレーンヨーグルトではちょっと分が悪い。そこで、油をバターで代用することに。整理すると、材料は以下となった。

●トマトカレー……玉ねぎ、にんにく、しょうが、塩、ぼんじりスープ、鶏肉、スパイス、油、トマトピューレ

●乳製品カレー……玉ねぎ、にんにく、しょうが、塩、ぼんじりスープ、鶏肉、スパイス、バター、プレーンヨーグルト

大量調理だから、ゴールデンルールの手順通りには進まない。個別に分解して組みなおした手順で進む。トマトとヨーグルトは蒸し煮&蒸し焼きした玉ねぎに混ぜ合わせ、油とバターはにんにく、しょうがを炒めるのに使う。
「トマト vs 乳製品」を正確に比較したいのなら、2種のカレーに使うスパイスの配合まで一緒にするべきだ。ところが、悪い癖が出てしまう。せっかくなら、別々の香りにしたい、と……。トマトの方をたっぷりのホールレッドチリを焦がして香りづけし、パウダースパイスもオーソドックスな配合に。乳製品の方はドライカスリメティとドライカレーリーフを手で揉みまくってどっさり加え、パウダースパイスはターメリックもチリもパプリカも使わないクミンベースの深い配合に。

結果、無事、チキンカレーは完成した。トマトカレーの方は、想像通りの味わい。乳製品カレーの方は、想像を超えるおいしさだった。でも、それは乳製品のおかげではない。スパイスの配合が自分の中でヒットだったのだと思う。実際にあいがけを食べてくれたイベント参加者に「どっちがおいしかった?」と尋ねたが、意見は割れた。
スパイスの配合を無視した上で、僕の感想で言えば、トマトの方がうま味は強い気がする。ただ、乳製品の方は、水と油がより分離して、それは料理としてはあまり褒められたものではないのだけれど、しゃばっとした仕上がりのカレーが食べたいときにはいいかも、と思う。同量のトマトとヨーグルトだったらどっちが勝つんだろう? とか、バターの代わりに生クリームにしたらどっちがうまいんだろう? とか、とにかく比較の仕方はまだたくさんある。トマトもヨーグルトも使わないカレーも数えきれないくらい作ってきた。それでもカレーはうまい。
じゃあ、第三の男はもしかしたらスパイスなのかもしれない。スパイスでうま味がつくとは想像しにくいのだけれど。

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