あいがけ

122.あいがけカレーの理想はどんなスタイルなのか? 問題

あいがけスタイルやワンプレート盛り合わせスタイルのカレーが増えている。僕もイベントでのライブクッキングなどで提供するカレーは盛り合わせにすることが多い。一方で、ちょっと天邪鬼な性格だから、「みんながやるならやめようかな」みたいな気持ちが出てきて、新刊では「あいがけ禁止」と「盛り合わせ禁止」を自分に課した。「トッピング禁止」は昔から貫いているスタイルだから、結果的に新刊『スパイスカレーを作る』では、単品カレーのみ、もしくは、カレーライスのどちらかだけで構成されている。

カレーは混ぜるとうまくなるという側面も持つわけだから、あいがけや盛り合わせは必然的な現象なのだと思う。ただ僕が興味があるのは、“あいがけが増える必然性”ではなく、“あいがけする必然性”の方である。AというカレーとBというカレーがあったときに、それぞれは50点のできだけど、あいがけすることで100点になるカレーもあるだろうし、AもBも100点で200点になるカレーもあるかもしれないし、AもBも100点なのにあいがけして120点とか、AもBも30点なのにあいがけすると120点になるカレーもありそうだ。すごいことだ。でも、なんだかワクワクはしない。

AとBはどんな関係なんだろう? 親子か夫婦かカップルか。親友なのかライバルなのか、生き別れた兄弟なのか。AのカレーをAの味、BのカレーをBの味にするときに何かテンションの上がる切り口を見つけたい。
ひとつ、前からやってみたいことがあった。「材料の分割」である。AとBの2種のカレーを作るのではなく、“Xカレー”という1種類のカレーをレシピ化し、その“材料”を2つに分けてそれぞれに“作り方”を再構築する。“右Xカレー”と“左Xカレー”ができあがったら、あいがけする。食べるときに混ぜ合わせると、最初にイメージした通りの“ネオXカレー”が完成する、はず。これが成功すれば、あいがけカレーの新しいスタイルを確立できるし、作るときも食べるときも楽しいはずだ。

ちょっとリッチな味わいの、でもオーソドックスなチキンカレーレシピをベースにやってみることにした。まずは、“Xカレー”の材料を使用順に並べる。

●Xカレー……油、ホールスパイス(カルダモン、クローブ、シナモン)、にんにく、しょうが、玉ねぎ、トマトピューレ、パウダースパイス(ターメリック、レッドチリ、パプリカ、クミン、コリアンダー)、塩、水、ココナッツミルク、鶏もも肉、フレッシュスパイス(半乾燥カレーリーフ)

 この材料を2つに分割する。ポイントとしては、ホール(&フレッシュ)スパイスを使う“右Xカレー”とパウダースパイスを使う“左Xカレー”といった具合にスパイスで分けてみた。

◆右Xカレー……油、ホールスパイス(カルダモン、クローブ、シナモン)、にんにく(みじん切り)、玉ねぎ(スライス)、塩、ココナッツミルク、鶏もも肉、フレッシュスパイス(半乾燥カレーリーフ)

◆左Xカレー……油、しょうが(すりおろし)、玉ねぎ(スライス)、トマトピューレ、パウダースパイス(ターメリック、レッドチリ、パプリカ、クミン、コリアンダー)、塩、水、鶏もも肉

作り方(切り方や加熱の方法)に意識的に変化をつけてデザインカレーした結果、右Xカレーはやわらかい味わいのクリーミーカレー、左Xカレーは濃厚な味わいのレッドカレーといった具合に仕上がった。食べてみると、どちらもうまい。材料を引き算してハンデを背負った分、おいしくするために工夫をしたのだから、味としての完成度は悪くないはずだ。
問題はここから。“右X”と“左X”を混ぜ合わせて“ネオXカレー”にして食べる。と、うまい。最初に僕がイメージしていた“Xカレー”に近い味わいに仕上がった。ということは、このスタイルであいがけすれば、ひとつのレシピから3種類の味わいが楽しめることになる。

真っ二つに割れたメダルの右片と左片がひょんなことから再会するようなあいがけカレー。左右をつなぎ合わせてピタリと元の形に戻った瞬間、輝きを放ち、得も言われぬおいしさを生み出すあいがけカレー。実験は成功と言っていい。油と塩は別として、今回は玉ねぎと鶏肉は半量ずつ双方のカレーに使ったが、これだって、どちらか一方にまとめてしまえば、よりストイックなあいがけカレーができあがる。しばらくハマりそうだな、このスタイル。
さて、これをなんと名付けよう。セパレートカレーか。それじゃあ説明的か。コラボカレーか。意味が違う。ファンタジーカレーとでもしておこうか。意味が分からな。ジョインカレーとかツインカレーとか? んんん、イマイチだな。
今後の課題にしよう。

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