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52. スパイスの香りや辛みは時間が経つとうつるのか? 問題

 レッドチリのパウダーを他のスパイスとブレンドするときには、気を付けたほうがいい。辛みが伝染するから。

そんな話をきいたことがあります。話してくれたのは、老舗カレー専門店「デリー」の田中社長。以来、辛みがうつるという概念がいまだに頭にずっと残っています。どういうことなんでしょうか?10あったはずの辛味が12とか15になるんでしょうか? ブレンドした他のスパイスまでが辛みを持つようになるんでしょうか? 感覚的なことだとは思いますが、感覚的に辛味が増したように感じるということなんだと思います。毎日同じ味のカレーを目指して作り続けているからこそ、こういうところにたどり着けるのかもしれません。ブレンドして1週間後のスパイスよりも1か月後のスパイスの方がなぜかできあがったカレーが辛く感じる。そんなことがあったのかもしれません。

辛味がうつるとしたら、香りもうつるんでしょうか。たとえば、肉をマリネするときには、肉に香りをうつす目的があります。油でホールスパイスを炒めるのは、油にスパイスの香りをうつす狙いがあると言われています。そう考えれば、スパイスの香りは、何か別の物体(食材)に乗りうつるという解釈ができるのかもしれません。昔のテレビドラマ「金八先生」に出てきた腐ったみかんの話のように。あ、いや、腐敗が伝染するのではないのですが。

ふと、そんなことを思ったのは、金沢から段ボール入りのスパイスが届いたときでした。現在、僕は、金沢市内のBUHというギャラリーで3か月間、スパイスの展示をさせていただいています。「水野仁輔 金沢スパイス研究所」というタイトルで、来場者は、スパイスを自由にブレンドして密閉ボトルに入れて展示します。すなわち、僕の個展ですが、お客さんも自分の作品を展示できるというわけです。期間中に展示されたミックススパイスの中で僕が最も香りがいいと判断したものは、金沢市内のカフェやカレー店で期間限定でメニュー化される予定になっています。

つい最近、100種類近くのミックススパイスが届きました。すべて来場者が楽しんでブレンドしてくれたものです。ひとつずつ、小さなビニール袋に小分けにされた状態でひとつの大きな段ボール箱にいれられて届きました。これがすごい香りを放っていたんです。おそらく、密閉度合いが完璧ではないというのお理由のひとつだと思います。ただ、それよりも、むしろ、スパイスの香りが袋にうつり、袋の香りがダンボールにうつっている印象でした。もしかしたら、スパイスの香りが別の物体にうつるとは、こういうことなのかも……。僕は普段、スパイスはガラス容器に入れて保存していますので、さすがに香りが漏れることはありません。でも素材によっては、香りがうつる可能性は高い。そして、それぞれの袋の中をチェックして香りを比べ始めた時にさらに思いました。これらのミックススパイスは、ブレンドされたスパイスどうしが相互に影響しあっているのかもしれない。スパイスをブレンドして新しい香りに出会えるのは、スパイスが粒子レベルで結合したりしているのでしょうか。

インド料理では、個別のスパイスをスプーンなどですくっては加えていきます。マリネなどをするような料理や、サンバルマサラ、ビリヤニマサラ、ガラムマサラのようにあらかじめミックスされたスパイスを使う料理を除けば、同じタイミングで複数のスパイスを加える時も個別に鍋に投入する。でも、日本のカレーはカレー粉で作られることが多いから、あらかじめブレンドされています。もし、全く同じレシピで、ひとつは、個別にスパイスを投入し、もうひとつは、数日前にミックスしておいたスパイスを使ったら、きっと仕上がりの味わいは変わるでしょう。そのくらい“スパイスの伝染力”はすごいということかもしれません。

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