15分カレー

126.たった15分でできるカレーはおいしいのか? 問題

 新刊『スパイスカレーを作る』に掲載するすべてのレシピについて撮影が終わった後に僕はひとつの感想をもった。
「ミニマルチキンカレーが一番おいしかったかも……」
これは、危険な感想である。ミニマルチキンカレーは、必要最低限の材料とスパイスで、シンプルにカレーを作ってみるというものだ。巻頭に紹介しているが、スパイスでカレーを作るときの構造を理解してもらうために、細かいテクニックをあえて排除して作ったものである。さっぱりしているといえば聞こえはいいが、人によっては、薄いとか浅いとか思われそうな味わいに仕上がる。ところがこれが個人的には一番おいしかった。
その後、カレーメソッドを活用した“おいしいカレー”のレシピが30品近く続くと言うのに、わざと適当なところで切り上げた、いわば“手抜きカレー”が一番だったなんて。そこでやってみたいことができた。機械的に短時間で作ったカレーはおいしくできるのだろうか?
この取り組みを面白くするためにひとつの制約をつけた。制限時間は1プロセスにつき3分。火加減は強火のみ。これでカレーがおいしくできるかどうかの実験というわけだ。本当に機械に作ってもらえたら最適なのだけれど、そうもいかず、僕が作る。僕が作ると機械的にレシピに制限を加えたところで僕のクセが出てしまう。それは仕方がないこととしよう。ゴールデンルールで作るスパイスカレーは、7つのステップに分かれている。手順を少し入れ替えることで短時間で素材に適性な火入れができるよう、以下のようにレシピを決めた。

1. 鍋に油とクミンシードを加えて強火で炒める。(3分)
2. にんにく、しょうが(共にみじん切り)、玉ねぎ(くし形切り)を加えて強火で炒める。(3分)
3. 鶏もも肉(ひと口大)を加えて強火で炒める。(3分)
4. ターメリック、レッドチリ、コリアンダー、塩を加えて強火で炒める。(3分)
5. トマト(乱切り)を加えて強火で炒める。(3分)
6. 水を注いで強火で煮る。(3分)
7. パクチー(ざく切り)を加えて強火で煮る。(3分)

ストップウォッチを横目にキッチリ時間を計り、合計21分でチキンカレーができあがった。食べてみると、うまい。ついでにAIR SPICE 基本のチキンカレーで30分以上かけてじっくり丁寧にレシピ通りの火加減で同じくチキンカレーを作った。こちらはスパイスもホールとパウダー合わせて10種類だし、ヨーグルトや生クリームなどのちょっとした隠し味も入っている。自分で言うのもなんだが、とてもよくできたレシピとスパイスの配合(のはず!)である。ところが、食べ比べてみると、前者の21分カレーのほうがうまい。ええ!? そんなはずはない。現場にいた20代の女性2名と40代の男性2名の反応も、おしなべて「後者のカレーの方が好き」だった。半分うれしく、半分へこんだ。

21分を振り返ってみて、2つ気がついたことがある。まず、1番のクミンシードを炒める部分は、冷たい油から火をつけて3分といえども、強火だとクミンシードが焦げそうになる。焦げたって構わないのだけれど、ちょっとビクビクして、2分経過の段階でにんにくとしょうがをフライングして加えてしまった。ということであれば、1番は省略しても構わない。
7番のパクチーについても省略できる。好きなら器に盛ってからトッピングしてもいいし、煮込み完了の10秒前に加えて混ぜ合わせてもいい。3番で鶏肉が加わっているから、その後、7番の手前まで加熱したとしても、強火で12分は火が入ることになる。鶏もも肉のひと口大ならきっちり中まで火入れできる時間だ。ということは、1番と7番を省いてもう一度、レシピを整理してみると、こうなる。

1. 鍋に油とクミンシード、にんにく、しょうが、玉ねぎを加えて強火で炒める。(3分)……【はじめの香り&ベースの風味】
2. 鶏肉を加えて強火で炒める。(3分)……【具】
3. ターメリック、レッドチリ、コリアンダー、塩を加えて強火で炒める。(3分)……【中心の香り】
4. トマトを加えて強火で炒める。(3分)……【うま味】
5. 水を注いでパクチーを加えて強火で煮る。(3分)……【水分&仕上げの香り】

さらにシンプルになってしまった。これなら15分間でチキンカレーが完成することになる。ちなみにこのトライアルは、4人分の分量で行ったため、できあがりのカレーは、800g以上になる。15分でこんなにおいしいチキンカレーができるなら、世界はひっくり返るだろう。「もし、クレオパトラの鼻が……」という言葉が浮かんだ。クレオパトラの鼻は長くならないが、カレーの調理時間は短くなるのである。
んんん、まいったな。AIR SPICEの「基本のチキンカレー」は今さら変えようとは思わない(実際には微修正を重ねてただいまVer.4だけど)。商品レビューでも150人近くの利用者に絶賛していただいているセットなのだ。でも、新たなセットを仲間入りさせようか。AIR SPICE「超簡単チキンカレー」(しかも基本のチキンカレーよりうまいかも)。ひとまず、今の段階では、コードネームを“クレオパトラカレー”として、スパイスの配合を考えてみようと思う。

★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/


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水野仁輔

スパイスを通じて刺激的な体験をお届けする「AIR SPICE」代表。カレーにまつわる大小さまざまな問題についてウジウジと実験したり考察したりします。 http://www.airspice.jp/

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