ガラムマサラだけでカレーを作ることはできるのか? 問題

スパイスを使ってカレーを作り始めたばかりの頃、ガラムマサラの魅力にとりつかれました。なんて香り高いんだろう。カレー粉の香りとはまた違って、奥深く、ふくよかな香り。適度にクセがあって、いかにも本格的なカレーができそうな感じがすきでした。市販のルウで作るカレーの仕上げにガラムマサラをパラリとやるだけで、インドの香りがそこはかとなく漂い、自分で作ったとは思えない本格的なカレーが楽しめる。
このガラムマサラひとふり、はずいぶん昔から有名な手法でした。今日から始まるNHK、Eテレの番組「趣味どきっ!」のカレー特集でも、第1回は、「ガラムマサラ」をクローズアップします。ガラムマサラのことを昔は、「辛いミックススパイス」と誤訳(?)していました。だから、日本の食品メーカー、スパイスメーカーさんのガラムマサラはレッドチリを加えて辛みを増し、カレーに香りと同時に辛味も加えられるアイテムとして製造されているものが多いようです。
ガラムという言葉に「HOT」という意味があることが原因のようですが、ガラムのHOTは、「辛い」ではなく「熱い」ではないか、というのが僕の考えです。インドでは、熱々のチャイのことを「ガラムチャイ」と呼ぶことがあります。チャイにレッドチリは入れません。そして、そもそもガラムマサラにもレッドチリは入りません。インドで作られているガラムマサラのレシピ30種類以上を比較したことがありますが、レッドチリを使っているレシピはたったひとつだけでした。いつかの誰かの誤訳を鵜呑みにしてしまったことで、日本のガラムマサラはちょっと間違えたまま流通しているんですね。
それはそうと、ときどき聞かれる質問に「ガラムマサラだけでカレーはできますか?」というのがあります。僕もかつて同じ疑問を持ち、トライしました。ところが、カレーにならないんです。不思議でした。7~8種類ほどのスパイスがミックスされていて、あんなに香りがいいのにカレーにならない。スパイスカレーに対する知見が深まってくると、もうひとつ、カレーに入ってガラムマサラに入っていないスパイスに気が付いたんです。それは、ターメリックです。ガラムマサラにターメリックは入りません。
カレー粉で作るとカレーになる。でもガラムマサラで作るとカレーにならない。カレー粉にあってガラムマサラにないのは、ターメリックとレッドチリです。こうやって整理するとわかりやすくなりますね。僕たちがカレーを食べてカレーだと思うのに大事なスパイスは、ターメリックとレッドチリの香りなんですね。
長い間、スパイスの世界では、「ターメリックは色みづけのスパイス」、「レッドチリは辛みづけのスパイス」と言われてきました。これもよくなかった。スパイスの役割は、香りづけ、色みづけ、辛みづけの3種だと言われています。たしかにターメリックで黄色くなり、レッドチリで辛くなる。でも、実は、どちらも香りが素晴らしいんです。そうでなければ、ガラムマサラでカレーを作っても黄色くなくて辛くない、おいしいカレーになるはずです。
ちなみにカレーでは主役を演じることが多いコリアンダーとクミンもガラムマサラの原料としては使用量が少な目で脇役です。ここまでガラムマサラの話をしておいて最後に言うのもなんですが、僕はガラムマサラはあまり使いません。好きだけど使わない。個別のスパイスでバランスを取って狙った香りに仕上げるのが好きだから、ひとふりで事態を激変させてしまうガラムマサラはちょっと邪魔なんですね(笑)。好みの問題ですが、エースストライカーは必要ない。エースストライカーがひとりいて、そこにボールを集めるサッカーよりも、1人1人が役割を果たし、組織力で勝つサッカーのほうが好き、みたいな感じなのかもしれません。
★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

46

水野仁輔

カレー

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。