46. 薬膳カレーというものはいったいなんなのか? 問題

のっけから弱気なことを言いますが、この問題にはまるで答えを出せる気がしません。世の中には薬膳カレーなるものが存在します。でも、僕には薬膳カレーがなんなのか、わかりません。カレーは身体にいいと言われています。でも、僕には、なぜカレーが身体にいいのか、わかりません。カレーを食べると健康になると言われています。でも、僕には本当にカレーを食べて健康になるのか、わかりません。
薬膳という言葉は、薬事法を逃れて商売をしようとした人が生み出した言葉だと聞いたことがあります。そのため、昔の医学関係者は、この言葉をできるだけ使わないように避けてきたのだ、とか。誰もが使える便利な言葉である反面、根拠が曖昧だからなんでしょう。カレーが身体にいいという根拠は、カレーがスパイスから作られているから。すなわち、スパイスには薬効があるから。これに基づいています。だったら、世の中すべてのカレーは薬膳カレーになりますね。でも、薬膳カレーと呼ぶものと薬膳カレーと呼ばないものが存在するのはなぜでしょうか。作った人や世に出した人、商売をする人が「薬膳」という言葉をつけるかつけないかの判断次第だからです。
よし、このカレーは薬膳カレーと言うことにしよう、と誰かが決めれば薬膳カレーはいくらでも世に生まれます。ま、おそらく、言ったもん勝ちの世界なんでしょうね。もちろん、何かしらの根拠に基づいているものもあります。ほとんどの場合、医学的な根拠になります。医学とは、主にアーユルヴェーダ(インド伝承医学)、中医学(もしくはその流れから生まれた漢方)、西洋医学などです。あるアーユルヴェーダの先生は、「インドで何千年もの間、培われてきた学問に基づいて体を整えるものだ」と主張します。でも、インドの気候や風土でインド人の体と向き合って何千年も育てられてきた医学が、日本の気候と風土で暮らす日本人にどこまで通用するかはわかりません。
ある漢方の先生は、「気候や風土がインドよりも中国のほうが日本に近いわけだから、漢方のほうが日本人の体質にあっている」と言います。確かにそうかもしれません。アーユルヴェーダで「身体を温める」と言われているスパイスが、漢方では「身体を冷やす」と言われていたりして、どっちなの!? と思ったりします。ただ、どちらにも共通していることは、本質的に個人の身体と向き合うことだという考え方。要するに人によって何が適正かは違うという点です。それと、病気になる前の状態、未病とか健康な状態とかから体調を整えるためにスパイスを使うという点も共通しています。
一方、ちょっと毛色が違うのは、西洋医学です。西洋医学の先生は、「身体に不調があったとき、その不調の原因を分子レベルで解析して対処しようとするものだ」と言います。確かに薬を飲んで風邪が治るわけだから納得できます。少なくとも僕自身は43年間、西洋医学に頼って病気を治してきましたし。分子レベルの病原菌や病因は、生活する気候や風土、民族性や国民性が違っても共通なんだと思います。だから、スパイスの効能に関しても世界中で科学的に検証された論文が出され、共有されています。
今夜のNHK・Eテレの番組「趣味どきっ!」では、スパイスカレーと健康をテーマに扱います。この番組では、「薬膳」という言葉の使用は避けました。特に注目したのは、抗酸化作用。抗酸化がなんなのかは番組をご覧いただくとして、万病を予防する可能性がある抗酸化作用の強いスパイスに注目し、カレーを作ります。じゃあ、このカレーを食べると健康になるの? と言われると、「僕にはよくわかりません」と答えるしかない。困ったものです。
「スパイスに薬効がある」ということと「スパイスを使ったカレーは身体にいい」ということは、イコールではないんでしょうね。日本にいつか、本当の薬膳カレーが生まれる日が来るといいなぁ、と思っています。
あ、どこまで誰の身体に効くかは別として、番組で紹介するターメリックラテは、もしかしたら流行るかもしれません(笑)。
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