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OB訪問したら壮絶なネットワークビジネスの勧誘だった話

最近では、就活に少しでも有利になろうと、インターンやob訪問に明け暮れる学生が増えているという。

ご多分に漏れず、私もかつてその一人だった。

ネットを使って情報収集に励み、色んなところに足を運ぶという意識高い系の真似事をしていた。

特に愛用していたのが「Matcher」というサイトである。

気になったobに対して、会ってみたいというサインを送れば、99%の確率であってもらえるのだ。

私がそのobに興味を持ったのは、「AI時代に生き残る副業教えます」とホリエモンみたいなことを言っていたからだった。

私はとにかく働きたくなかった。これからはAI時代になるから就活しなくてもいい、とobに肯定してもらいたかったのだ。


待ち合わせ場所は歌舞伎町のルノアールだった。

ルノアールくそコーヒー高いんだよなぁ、と思いながら、店内を探すとパソコンのキーボードを忙しなく打つ彼を見つけた。

声をかけると、「はじめまして!」と元気に挨拶してくれた。パーマを当てた髪に、半袖短パン。とても陽気な人だった。

当時の私はコピーライターを目指していたが、就活がまったく上手くいっておらず、どうしたらいいのか分からないという悩みを打ち明けた。

彼は私の悩みを真摯に聞いてくれ、かつて自分も進路で困った話をしてくれた。

彼のそれまでの人生遍歴は荒波のようだった。

フィリピンと日本人のハーフである彼は、小さい頃両親が離婚し、母子家庭で育った。

そして小学校のとき、母がクラブで捕まえてきたポルトガル人の男と一緒に住み始め、結婚。
しかしポルトガル人は全く働く気がなく、生活保護を受給しながら、妹を含めた一家4人で暮らしていたのだという。

そこで困ったのは、彼が18歳を迎えようとしていたこと。18歳になると、生活保護受給額が一気に減るので、自立してお金を稼がなければならないのだ。

思い出したのは、高校時代の先輩のことだった。

工業高校でバスケ部のエースだった先輩は、人間的にも優れた尊敬できる人だった。しかしトヨタの期間工の仕事をはじめてから、愚痴ばかり言うようになり、彼はショックを受けたのだという。工業高校から工場に就職するのは一般的なルートだが、そうしたら人生終わりだと思い、そこから大学を志した。

18歳を迎えた彼は親とほとんど縁を切り、無我夢中でお金を稼ぎながら受験勉強を続けた。

結果、2浪して上智大学に合格する。

入学してからも考えつづけたのはとにかくお金のことで、効率よく稼ぐにはどうしたらいいのか追求しまくったのだという。

Facebookで偉い人と会うアポイントメントを取ったり。
そのつてで色んな人を紹介してもらったり。

そして出会ったのが、いまお世話になっている神みたいなコピーライターだった、と彼は涙ぐみそうな口調で言ったのだった。

彼と出会ったおかげで今、なんとかメシが食えるほどのお金を稼げているのだという。

彼は私を、その偉大なコピーライターに会わせたいと言った。

同じ大学出身なので、obとして出来ることはなんでもしたいと言った。

そのコピーライターはサイゼリヤの広告を書いてる人で、売り上げに関して言えば日本で5本の指に入る凄い人らしかった。

今思えば「はあ?サイゼリヤ?」だが、当時の私は「サイゼリヤすげえ!」だった。


後日、私は彼とまた待ち合わせた。場所は前回とは違う新宿のルノアールだった。

向かう直前、彼は「ちょっと時間押してるから待ち合わせの30分後に来て」と言った。なにが押してるのか分からなかったが、私は言われたとおり30分後にルノアールに到着した。

紹介されたのは茶髪で鼻の穴の大きい、二十代半ばくらいの男だった。ヘビースモーカーなのか、ずっと煙草をすぱすぱ吸っていた。

「有名なコピーライターだと聞いて今日は来ました」

私がそう言うと茶髪は一瞬眉をしかめた。

ああ、そういうことね。俺、コピーライティングだけでメシ食ってるんだよね。

茶髪の自分語りはざっくりこんな感じだった。

学習院大学をビジネスを始めたいという理由で、一ヶ月足らずで退学。色んな人からビジネスを学ぼうと情報商材を買ったが、その結果稼げたのはたったの120円。しかしそこから色んな試行錯誤(具体的には忘れた)を経て、現在ブログでの集客をメインに年商1億円を達成した。

私がコピーライターを目指していたという話をすると、

「ああ、俺の知り合いに電通も博報堂もいるから、コネで入れてあげるよ。でもあそこめちゃめちゃ激務だよ?その覚悟ある?」と言われた。

「これからは組織より個人の時代だから。AIが発展したら今ある企業は大手でもバタバタつぶれる。そんな中生き残れるのは、個人の能力が高い人だけ。俺が開いているゼミなら、その能力を磨いてあげられる。わざわざ就活なんてしなくても、1人で稼げるようになるよ。」

まさに私が聞きたい話を聞けて嬉しくなる。その様子を見た茶髪は意気揚々と主催するゼミの話をする。大会議室を貸し切って講演している様子をこれ見よがしに見せられる。

実際に受講生が書いて大金を稼いだブログも見せてもらった。パソコンスキルが1ミリもない私は、素直にすごいと思った。

「受講価格はたったの20万円。車の免許がとれる値段で一生もののコピーライティングスキルが手に入る。どう、興味ない?」

私は、隣に座っていた彼を見る。私に茶髪を紹介した彼は、目が死んでいた。前回会って目をキラキラさせて色んな話をしていた彼とはまるで別人だった。

その時はまだ、なぜ彼の目が死んでいるのか気付かなかった。

「興味あります」

そう答えたバカな私は、とりあえずそのゼミについての説明会に参加することになった。
説明会に参加するのに1000円かかるらしかったが、私は問題ないと言った。

次回説明会で会う約束をして、リュックから財布を取り出した。コーヒー代を払おうと、伝票を見た。レシートにあった金額はなんと、「6000円」だった。

はあ?と私は思った。そんなにコーヒー飲んでないのになんでこんなに高いんだろう。

お金を払う手が止まる。過去を遡って、思考を巡らせる。そして、1つの答えにたどり着く。

「自分が来る前に、色んな学生を勧誘していたんだ」

彼から「30分押してるから遅れてきて」とか、隣に座っている彼の目が死んでる(同じ話を何度も聞き飽きてきた)とか、伝票の金額がおかしいとか。

これが噂に聞くネットワークビジネスか。

それに気づいた私は財布のお金をさぐる手を止めた。

私は茶髪に

「いまお金ないんで、今度の説明会でお金払ってもいいですか」

と聞いた。
「いいよー」と軽いノリで返され、私はそのまま家に帰り、茶髪と彼のlineをブロックした。

後日その茶髪の名前でネット検索をかけまくると、どうやら、名字を変えて活動してる元詐欺師だということが判明した。

最近ではOB訪問でのセクハラが問題になったが、はびこっているのはただのヤリ目だけではない。

もっとタチの悪いネットワークビジネスの可能性だってあるのだ。

夏目漱石の「漱」という字がはいる人物なので、もし会う機会があったらくれぐれもきをつけていただきたい。

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