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神様のお告げ野郎は、電気羊の夢を見るか。

仮面浪人していた頃の同志に、「神様のお告げ野郎」がいた。

彼はすでに一浪して大学に入学してきており、慶應のSFC一本でもう一度再受験するとのことだった。

神様のお告げ野郎はとにかく、自分に降りかかる事象のほとんどを「神様のお告げ」として捉えていた。

例えば、サークルの新歓でのこと。私たちが知り合ったのは5月の頭で、その1週間後にはもう、新歓をやっているところは少なかった。

ずっと慶應に向けて受験勉強していた彼は、入学直後の新歓の波にまったく乗れず、暗い大学生活を送っていたらしい。

「もし受験に失敗したら2度と新歓にはいけない。でも友達がいないから一緒に行ってくれる人もいない。ねえいしだくん、今度新歓にいってみない?」という具合だった。

すでにサークルに入っていた私だったが、彼がなんとなく可哀そうになり、5月でも行ける新歓を探した。

すると、「新歓やります!」と書かれたフットサルサークルと合唱サークルの張り紙を見つけた。

私はフットサルにも合唱にも興味がなかったが、さっそく、QRコードを読み取って参加希望の旨を二人分でだした。

これでやっと新歓にいけるね~~と言い合ったのもつかの間、

サークルから「応募者多数のため、新歓は締め切らせていただきました。ご了承ください。」との返信が。

それを見た彼からは「これは神様からのお告げだ。僕たちに、新歓出るくらいならその時間を使って受験勉強しろという意味だ。だから、神様のお告げに従って勉強してれば絶対合格できる」とlineが来た。私は「おう、そうだな!」と適当なノリで返信しておいた。

その後も、例えば授業内容が受験勉強と被っていた時や、模試の判定が悪かった時など彼からlineがきて、なにかとこじつけて「これは神様のお告げだ」と言い張った。

ある意味ポジティブ野郎だな、と思いながらも内心うざったくなっていた私は、lineを無視しはじめ、彼とは夏前を最後に、連絡を取り合わなくなっていったのだった。


次に彼と会ったのは、半年後となる1月のことだ。大学の図書館で缶詰になっていた私は、同じく缶詰になっていた彼と再会する。

目があった瞬間、「お、おう」みたいな空気感になった。

さすがに無視はできないので、「今どんな感じよ」といった近況報告タイムになる。

彼は相変わらず模試の点数が伸び悩んでいるらしかった。

まあそりゃ二浪で、慶應は2科目試験だしな~~と私は思った。口には出さなかったけれども。

「でも大丈夫」と彼は言った。

「俺、お正月にひいたおみくじ、大吉だったんだ。これは神様からのお告げだ。今年は絶対に合格できる。俺はもう、この大学とはおさらばするぜ」

「お、おう」とさすがにこの時は口に出して私は言ったのだった。


結論から言うと、彼は慶應に落ちた。彼から直接結果を聞いたわけではない。

毎日更新していたTwitterアカウントを消したのだった。

「今年は絶対合格できる」的なことを、まるで引き寄せの法則を実践しているかのごとくつぶやいていた彼は、合格発表が出そろう3月に、突如として消えた。

落ちたんだな~と察した私は、lineでも連絡をとらなかった。もしlineしたら、「これは三浪しろという神様のお告げかもしれない」とかましてくるかもしれなかった。


神様のお告げを信じすぎた彼は今、どうやって現実に向き合っているのか気になった。もしかしたら、電気羊の夢でも見ているのかもしれない。

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