岡山から見る相磯桃花作品 author by 宏美

 私は岡山から東京に通いながら作家活動をしている。
私が自分の展示以外で東京に行くときは、観たい作家の展示があるときだ。
その最たるものが相磯桃花である。
しかし悲しいことにあまり観に行けてないのが現状だ。

 私が観た相磯桃花の展示は、
「キャラクラッシュ!(2014年/カオス*ラウンジアトリエ)」
「京都造形芸術大学卒業展(2015年/京都造形芸術大学)」
「ももか exseeeeess!!(2015年/新宿眼科画廊)」
「私がした暴力(2018年/ナオナカムラ)」の4つであり、
特に2016〜2017年の展示は見逃している。
なので今回、文章を寄稿するには少し申し訳なく感じる。


 私が、相磯桃花の作品を最初に観た感想は「女の人が描く絵っぽい」というものである。

 2014年にカオス*ラウンジのアートスクール、ポストスーパーフラットに通うことになり、週1で岡山から東京に通う事になった。
岡山の美大に通っていたものの、私が好きな村上隆やMr.の作品の話しは同級生はおろか、教員ですら「よく分からない」とあしらわれる感じで、
私にはアニメの絵のような作品について話しができる友人がいなかった。
 当時は美術手帖でしか東京のアート事情を知らなかった私だが、実際に東京のアートシーンは、蓋を開けてみればアニメ絵に感化された作品が多くある事に驚いた。
(ちなみに岡山の美大ではアニメの絵を描いてる人はいなかった…)

 東京に通っているうちに何人かアニメの作品を作る友人たちに恵まれるようになったが、そこで話していて違和感を覚えたのは、
その友人たちは大抵「CLANNAD」や「true tears」などの、所謂ギャルゲーを学生時代に観賞し影響されて現在の作家活動があるようだった事である。
 一方私と言えば、田舎の山の中で、学生時代はジャンプ漫画を読んだり、流行っていた音ゲーをしていた。しかし音ゲー自体は全く練習せず、
ゲームに出てくるキャラクターばかり愛していた(未だにメールアドレスにキャラクター名が入っている)。そして、当然のように二次創作でごりごりのBLばかり描いている女子の一人だった。


 コミケには行ったことないが、地方のイベントには通っていた、しかしそこでもボーイズラブのような二次創作が多かったように思う…。
周りにも腐女子ししかいない隔離された田舎の空間で、ギャルゲーのようなアニメを見る機会などなく、むしろ東京に来てから初めて知ったオタク文化だった。
もちろん中には男性キャラクターがメインになっている作品もあるのだが、圧倒的に女性キャラクターが多く描かれていて、
そしてその女性キャラクターはギャルゲーが基盤になっているものが多いように感じる。
なので私は最初に相磯桃花の絵を見たとき、むしろ懐かしく感じた。
中学生時代にボーイズラブを描いていた友達や絵が上手い先輩、そういった空気を相磯桃花の絵が持っていたからである。


 また相磯桃花の作品が「女性が描いてる絵」だと思う部分は女性キャラクターを描くうえで性的な表現が少ないことにある。
「ももか exseeeeess!!」で展示されていた女性キャラクターは胸が平たく、存在をあまり感じさせない。
また太ももなどにも過剰な膨らみがなく、すっきりしている。
キャラクターのデザインとして下着姿の女の子がいるにしろ、胸やお尻など性的な部分を過剰に描かることがないように観える。
近年、Twitterではキャラクターの服装のデザインや胸の表現が「性的で不快だ」いう話題があるが、相磯桃花の作品ではそういった過剰な表現が無いように思える。


 Twitterで女性キャラクターの表現について「性的で不快である」という理由で、しばしば炎上することがある。
その一例としてキズナアイがあるが、キズナアイが主に性的だと捉えれていた部分に胸が大きく描かれていることと、胸の下部分に服の皺があることが挙げられた。
この2つの表現は昔から女性キャラクターを描かれるときに使わるものだったが、なぜこの表現が一部の人に性的に読み取られてしまったのか、
それはこの表現がギャルゲーに多用される表現だからではないかと思う。


 一方、男性キャラクターに関しては、積極的に性的に描こうとしているように思える。私が見逃している2016〜2017年には「BOYS LOVE(2016年/新宿眼科画廊)」「BOYSLOVE-花-(2017年/野方の空白)」ではタイトルどおり、ボーイズラブについて展示をしていることから、
男性へ性的な感情を表現しようとしているのが伺える。
観てない展示に関して何か言うのはとても申し訳ないのだが、「BOYSLOVE-花-」のDM 作品では男性のキャラクターが裸で横になっている姿が描かれており、ここで注目したいのは、彼の髪が長いことである。

相磯桃花の作品には度々髪の長いキャラクターが現れ、そのキャラクターの性別がはっきりと分からないものある。
私は昔から少女漫画に出てくる長髪の男キャラが好きだったのだが、少女漫画には、例えば、CLANPの「カードキャプターさくら」にでてくる月(ユエ)や高河ゆんの「LOVELESS」
にでてくる我妻草灯(あがつま そうび)など髪が長く、中性的な顔立ちの男性キャラクターが登場してくる。そしてどのキャラクターも同性愛(ボーイズラブ)であることが多い。


私が子供のころに読んでいた、特に1990年代以前の少女漫画には度々、長髪美青年が登場しており、ボーイズラブもあり、恋愛観も多様だったように思う。
しかし最近の少女漫画にはあまり出てこないのが現状で、この二つの漫画がファンタジーに対し、最近の少女漫画にはファンタジーものの漫画がすっかりなくなっているからなのではなかと思う。
それでも種村有菜の作品には学園ものながら長髪美青年が登場する。
DMのキャラはそういった男性キャラを連想させる。また月も我妻草灯も白髪なのだが、このキャラクターはピンク色の髪をしており、
ピンク色の髪といえば「まどか☆マギカ」や「おジャ魔女どれみ」、プリキュアシリーズなどでも描かれる魔法少女キャラクターの中心人物に多く使われている髪の色で
この少年がストーリー上で主人公的な存在であることが分かる。そして鮮やかな色が使われていることも、
魔法少女のキャラクターがでてくるようなファンタジー系のストーリーなのではないかと私に連想させた。


 過去の展示ではキャラクターの首が長くなったり、造形が捻じれたりとキャラクターそのものの定義を考える作品が多かったが、
2016〜2017年のボーイズラブに関する展示で女性が男性キャラクターに対してどのような性愛をもっているか表現したかったように思える。
しかし2018年に行った「私がした暴力」では、あまり性的な部分が表現されておらず、
部屋には何人かの男性キャラクターがそれぞれ個別に描かれており、どれも驚いているような泣いているような複雑そうな表情をしていた。
奥にはプロジェクターで映し出された背景に2人のキャラクターが映し出されていた。


 前もって言っておくと、私はあまり女性向けの恋愛アドベンチャーゲーム(逆ハーレムゲー)をしたことがない。
それでもプロジェクターで映し出された2人の青年や、それを取り囲む男性キャラクターたちの肖像は、「うたの☆プリンスさまっ♪」や「アイドルマスターsideM」のような男性キャラクターが多く出てくる女性向けの作品を連想させるし、彼らがゲームやアニメではあまり見かけないような、複雑な表情には男性キャラクターを明らかに「消費」しているような気分になる。


 私たちが普段、街中で見かけるアイドルや女優の際どいグラビア写真は、当たり前の光景になっているが胸が痛むことがある。
グラビア写真そのものを否定しているわけではないが、こんなにも女性を性的に消費していることが表向きで当たり前になっていること、
そして時として自分がそれが嫌いではないことに複雑な気持ちになる。
2019年2月に放送されたラジオ番組「ヤングタウン」でモーニング娘'19の佐藤優樹が、アイドルが水着姿になることに「軽く考える脳みそをどうにかしたほうがいい」と言っている。
佐藤優樹は水着撮影がNGのアイドルで、その原因は「親が厳しいから」とファンの間で噂されており、
実際に芸能活動をしている2011年から2017年まで企画もの以外、個人での写真集を一切出しておらず、2018年に初めて写真集を一冊だしたが、
そこにも水着姿はなかった。
私の中でグラビア写真に対して抱いてた感情が晴れた気がする。
女性の身体に関して軽く考えないでほしいという気持ちがあり、それは女性キャラクターに対してもそう感じるのだ。
Twitterで女性キャラクターの表現に対して批判され、炎上している事が多々あるが、批判している人はこのような気持ちなのかもしれない。


 相磯桃花が男性キャラクターを女性が、性的に消費している様を描くことで、男性に、性的に消費されことについてもっと考えて欲しいと言われてるような、私にはそう感じる。
また髪の色がピンク色なのでファンタジー系のようなストーリーがあるのではないか?と述べた。
近年、逆ハーレムものの作品はスマホゲームを中心に増え、男性キャラクターの数も増えてきている。
男性が女性キャラクターを消費するように、いよいよ表立って女性が男性キャラクターを消費していることが分かるが、セカイ系という名作は出ていない。

相磯桃花が男性キャラクターで性的部分だけではなく、その先の新しいファンタジーを表現してくれるのではないかと私は期待している。



 2019年7月に相磯桃花の展示が岡山のギャラリー「of」で行われるが、
岡山でキャラクターが出てくる作品が展示されることは珍しい。
日本に昔からキャラクター表現が多く存在しているのに、地方の美大では一切扱われることがない。
これを機会に多くの若い人にキャラクター表現の作品に触れてほしいと思う。


宏美

プロフィール

宏美(hiromi)
1989年 岡山県生まれ
2014年 カオス*ラウンジ主催のアートスクール「ポストスーパーフラット」へ通う
2015年 な春夏秋冬な二人展「アイドルの終わりのための手紙をめぐる物語」(な春夏秋冬なの自室/東京)
2015年 な春夏秋冬な二人展「アイドルの夜」(DESK/okumura /東京)
2017年 個展「岡山→東京」(新宿眼科画廊/東京)
2018年 かえれちゃん2002二人展「interface」(新宿眼科画廊/東京)
2018年 個展「東京→岡山」(of/岡山)
2018年 グループ展「カオス*ラウンジX ポタティックドリーム 実質ヴァーチャルの冬」(中央本線画廊/東京)


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