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【インタビュー】ATATA 1st Mini Album「JOY」リリースによせて

2020年11月7日(土)、結成後初ライブからちょうど10年後となる同日にキャリア史上最大キャパシティーとなる恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブを行うバンド・ATATA。

(偶然とはいえ)10年前の初ライブを目撃して心を掴まれ、10年間ライブに通い続けている僕にとっては非常に感慨深いものがあります。

メンバー各々がパンクやオルタナ界隈で名を馳せたバンド出身であるオールスターバンドであり楽曲クオリティやライブパフォーマンスの高さは言わずもがな。

社会人として仕事をしつつバランスをとりながら音楽活動を行っていることを公言、活動初期から楽曲を無料配信、ライブハウスの閑散時間となる昼間を狙って実現した全国無料ライブハウスツアーなど、今では当たり前になりつつある様々な活動手法を最初期から実践していた彼らのスタイルにもずっと魅せられてきました。

僕個人とバンドの関わりで言うと、2016年に彼らが1st Mini Album「JOY」をリリースした際、Vo.奈部川光儀さんにインタビューを行ったのですが掲載サイト(OTOZINE)自体が閉鎖となったためインタビュー記事自体も見れない状態が続いており残念な気持ちでおりました。

そこでせっかく活動10周年イヤーになるので少しでも彼らの広報活動を手伝えるなら手伝いたい(チケットは8月9日から一般販売)、このインタビューの中では作品にとどまらず働きながら音楽をするってことについても語ってくれているので同じような状況の人・そういう状況を迎えようとしている人に読んでほしい、そして彼らの作品の中でも最も大好きな「JOY」を一人でも多くの人に聞いてもらえるきっかけを作りたいという思いからnoteに再掲することにしました(関係者のみなさんありがとうございました)。

3年半前のインタビューになりますがその後に配信されたspotifyリンクも付けてありますので作品を聞きながら読んでもらえたら嬉しいです。

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今作はなにより「ライブ感」にこだわった

-まずは3年ぶりの音源発売おめでとうございます!

奈部川(以下、奈):ありがとうございます。ようやく出ます(笑)

-今作はやはり"一発録り"であることが、今のバンドのモードを象徴しているように思えます。配信やレコード等で発表済の既発曲たちも、発表時から今までのライブで積み重ねた経験が反映され、別の曲みたいですね。

奈:今作を作るにあたって「1 Nite Wonder (※1)」や「Reverberation (※2)」が発表時よりカッコ悪くなってたら負けだなと思ってたんです。録り直したときに、演奏慣れしちゃってるからテンション下がってるだとか、演奏が変にこなれてたらイヤだな、と思っていたので、特に気合を入れて録りました。

-既発曲も含めたアルバム全般に言えることなんですが、今作はキーボードの音が、これまでの作品に比べてかなり全面に出てるなぁと思っていて。それがこのアルバムのサウンド面での大きな特徴になっている気がします。

奈:アソウ君(※3)からミックス後の音源を渡されたときに、俺もキーボードがすごく前に出てるな、と思いました。でも、かえってそれが新しかったから、満場一致でOKしたんです。
多分、健太君(※4)自身がATATAで一番成長したんだと思います。ライブ中、メンバー全員があんなに好き勝手やってる中で間をかいくぐって音を出していくっていう、バンド内での自分の立ち位置を掴みかけてきてる。
彼はキーボードほぼ初心者の状態でバンドに加入しているので一番色々なことを考えてたはずなんです。そしてその結果が今作で出てきてる。

-健太さんは、ライブだけでなくサウンド面でも牽引役になった感がありますね!今作を"一発録り"で作ることは、最初から決めてたんでしょうか?

奈:決めていました。俺らは基本的に、レコーディングをやろうって決めたときに最初に軸となる曲を1曲を決めたらその前後のつながりを考えつつ、レコーディング期間中に作れる曲数を決めて配置しちゃう。
なので、スタジオに入る前にはアルバム全体の曲調や世界観・歌詞のテーマも全部決定済なんです。

-結構珍しい方式ですね。で、今作のテーマはずばり"ライブ"なんじゃないかなと思っています。全6曲で1本のセットリストという意図があるんじゃないかと。5曲目の「song of joy」が本編最後で、6曲目「The Next Page」がアンコール・・・

奈:そうそう、その通り!今作は音源でライブを表現したかったんですよ。「The Next Page」はできた当初は1曲に置くことも考えたんですがATATAのライブならアンコールは攻めでいきたいな、と思って最後に配置しました。結果、作品全体が締まったと思います。

ATATAって、"ライブ"のためにあらゆる行動なり小ネタなりを仕込んでいると思うんですよね。ATATAにとって"ライブ"ってどういったものでしょうか。

奈:バンドの本質は"ライブ"だっていうのは常々俺の中にあります。極端なこと言うと、音源も宣伝もすべてライブに向かってるんですよ。ライブに来てもらうために音源作らなきゃならないし、音源作っても聴いてくれる人いなきゃお客さん増えないし、聴いてくれる人増やすためにはその方法を考えなきゃならない。

結成当初、「Fury of the year(以下、Fury)」をHP上から無料配布したとき(※5)、最初は『儲けてもしゃあないから100円でCD-R売ろうか』って話があったんです。ただ結果的には俺が無料で配ろうって提案したんです。前のバンド終わってからATATA組むまでの間、クラブミュージックばっかり聴いていたんですがクラブミュージックって音源がほとんど無料って文化があったりする。まず音を聴かせてハコに来てもらうって戦略なんですが、これをロックバンドでやってる人そんなにいないな、と。
そもそも「Fury」は製作にほとんどお金かかってなかったしこの曲をタダで配って、良いと思う人にライブハウスに来てもらったらいいんじゃないか。そういう話をみんなとして無料にしたんです。いざ初ライブやってみたら「Fury」で大合唱起きたのでやってよかったなって思いました。バンドの実力も、人となりも、やっぱり"ライブ"を通して伝わるものだからそういう感覚はこれからも大事にしてきたいです。

ちなみに俺らはメンバー全員が仕事をしているので今作は土日2日間に絞ってレコーディングしました。何回も録り直しして終わったころにはみんなしてすべて出し切った生気のない顔になったんですが(笑)、2日に凝縮した結果としてとても"ライブ"感は出たと思います。

ATATAの活動はいつも逆説的

-この作品を引っ提げて行うリリースツアーについて聞かせて下さい。全公演“昼間”“無料”との発表があったとき、『こう来たか!』と驚きました。ズバリ、今回のツアーの本当の"狙い"を教えて下さい!

奈:色んな意味があるんですけどね・・・実は単純じゃないんですよ、俺らも(笑)。

ただ、あえてひとつ言うなら『CDが売れなくなり、ライブに人が増えてる』って話をよく聞くじゃないですか。でも俺自身は『それって本当かよ』って思ってて。俺らの周りのバンドでお客さんがどっと増えてるって話全くないですし。じゃあ『ライブを無料にしたらCDが売れるのか?』っていうことを試したいなと思ったんです。なので今回は音源についてはちゃんとお金もらおうって決めました。

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-面白い発想ですがすごくチャレンジングですよね。ただ、その考えに協力してくれる人が沢山いるのが素敵だと思います。

奈:無駄なキャリアのおかげですよ(笑)。今回の会場になるライブハウスも、全て友達が働いてるハコなので融通利くんですよ。

まず"ライブを無料にしたらCDが売れるか試す"って発想をしたうえでツアーマネージャーに相談したんです。そうしたらマネージャーから、どこのライブハウスも昼間にやるなら高くて数万、場所によってはタダでいいって言っているという話を聞いたんです。であれば、昼公演なら目的の無料ライブは実現できるなと。

と同時に、ほぼ無料に近い値段でライブをやらせてもらうので各会場にも利益を出したい。なので昼間俺らの無料ライブでドリンク代を稼いで、そのあと夜のライブにもちゃんと人が入ればハコにも迷惑掛からないなと。発想して、提案して、動いてみたら、結果的に全てうまくつながったんです。

ATATAの活動の発想って逆説的なんですよ。まず自分達が出来ないことから考えるんです。例えば、メンバー全員に家庭があって仕事がある。大規模な全国ツアーをやりたくても地方公演やったら翌日の仕事があるので現実的には難しい。でも、ツアーはやりたい・・・・あ、昼ならできるねって感じでマイナスから考えるんです。今回で言えば昼に借りたら安かった。だから無料にしよう。マイナスから考え始めたら結果全部プラスに転がったんですよ。

-できないことから発想するって考え方は昔からなんですか?

奈:結成当時からそうですね。バンド始めた時みんな30才くらいだし俺は35才だった。当時の俺らの年齢や置かれたシチュエーションから考えると・・・・若かったら音楽で飯を食うって夢を描けるじゃないですか。でも俺らって最初の時点で夢がないんです。自分達がどこまでいけるかって上限が分かってる。仮に今回のアルバムが受け入れられてブレイクしたとしても、平日はライブができないし要望に応えられないことのほうが圧倒的に多いんですよ。自分達の今の生活スタイルを変えるつもりがないので。だから、自分達ができることのぎりぎりまでやって遊んでみようっていうのがATATAの活動における考え方ですね。

-“昼公演”という部分も聞かせて下さい。日本のライブハウスって昼間にライブやるケースって少ないじゃないですか。僕の周りでライブハウスに行かなくなった人って、やっぱり家族が出来たから夜は遊びづらいってのがあって。そういう人が戻るきっかけになるのかもしれないと感じていたりします。

奈:アメリカなんかだと21歳以下は夜のライブハウスに入れないので代わりに昼間にやる「Sunday matinee」って仕組みがあるんですよ。その状況を日本に置き換えれば、夜ライブハウスに来れない家族層が昼間にやることでこれるようになるからいいじゃないかっていう単純な発想なんです。日本では昼間にやるケースあまりないから、結果的に隙間を狙えたのかなっていう。

−昼公演したらチケット代は安くできるし新しいファン層に会えるかもしれないし、多くのバンドにとって1つの可能性になるかもしれないですね。

奈:そうですね。しかも昼公演は夜公演と違ってライバルも少ないので今のところマイナスはあまり感じてないですね。音楽は届けたいし大事なんですけど、最近は俺らと同年代の人達のライフスタイルに寄り添って活動していきたいという想いが強くなりました。俺らもファンも無理しないし無理させない。

俺、前のバンドで横山健氏(Hi-STANDARD、Ken Yokoyama)の前座をやらせて貰ったことがあるんですが後ろの方のお客さんは子供連れが結構多かったんです。それを見て『この人たち、横山健とずっと一緒に年取ってるんだな。』って思ってうらやましくて。そういうこともあって最近は音楽好きだけに届けばいい、みたいな前のバンド時代に思ってた考えはなくなりましたね。

‐メンバーにも子供が生まれてきてるのも大きいかもしれないですね。

奈:うんうん。だんだん音楽が生活の一部になってきたというか。去年、仙台で昼公演をやったんですが、子供が結構来てくれたのでフロア全部禁煙にしたんです。で、子供をステージに上げてステージから客席にダイブさせてあげたんですよ。その子のダイブはじめはATATAってことになるのが嬉しいですよね。

-今回の無料ツアー、普段ATATAのライブではあまり見かけない中高生とか来たら面白いですね。無料で昼間だからこそティーンも沢山来れるだろうし。

奈:ぶっちゃけて言えば、別にレンタルでもサイトで落とそうがどうでもよくてただ聴いてくれればいいんですよ。10代の子とかお金大変だろうしタダで聴いて面白かったらお小遣いの範疇でたまにライブきてよっていう。来てくれたら楽しませるし使ってもらった時間は絶対に無駄にさせないので。

ATATAの活動は不自由だけど気持ちはすごく自由

‐今回、話を伺って昼公演の理由、無料の理由がとてもクリアになりました。昼間、かつ無料だからこそ、友人も誘いやすいと思うので、色んな人に沢山来てほしいですよね。

奈:ファンのみんながいつもすごい熱量で俺らを薦めてくれることに対してATATAがなにもバックアップできてないなって思いがあったんですよ。バンドの本質はライブだし俺らはライブに自信があるからこそファンのみんなが『このバンドいいからライブ見てよ』って言うときに無料だったらバックアップできるよなと思っていたのでようやく実現できて嬉しいです。

こういうこと、バンドマンはみんな試してみたらいいかもしれない。お金はあとから必ず付いてきます。まずはお金のことを考えないでまずやってみることが大事。自分達が損すればそれを見てくれてる人達が『あいつら頑張ってるな』って損してくれる。その関係性に懸けるべきだしそれを信じた方が健全な気がします。

働きながら音楽をやることに通じるかもしれないですけど、それぞれが仕事を持ってる俺らは活動はすごく不自由だけど気持ちはすごく自由なんです。好きなことやれるし仕事してるからご飯は食べられるし。バンド活動に軸足を置きすぎてないので不安が少ない。

-音楽活動の新しい形かもしれないですね。趣味を趣味でとどめず、仕事とのバランスを最大限で取る。こういう人が増えたら面白いことがおきるかもしれないですね。

奈:うん。選択肢が増えると思うんですよ、音楽をやるということに対して。

-今日はありがとうございました。最後に無料ツアーに対する意気込みを頂けますか?

奈:まだ会ったことがない人達に会って音を聴いてもらいたいですね。そして今までのファンも騒ぎに来てほしいし。新旧のファンとハコで会いたいです。一緒に騒ぎましょう!せっかく昼間に無料でやるので俺らのライブ楽しんで、余ったお金で飲んだり夜のライブ見て俺らと一緒に日本中を旅行しましょう(笑)!

※1:2014/4/19(Record Store Day)リリースの7インチレコード「2 SONGS EP」収録
※2:2014/8/20に残響レコードよりリリースの「残響record Compilation vol.4」に収録
※3:ATATAのサウンドエンジニア
※4:キーボード担当の岩田健太氏
※5:現在も「Fury of the year」含む3曲を配布中


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