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#22 時代にマッチしない?「マッチ」

 ずいぶん以前、あるイベントで小学生に鉄を熱して方位磁針(コンパス)を作ってもらった。そこで事件は起きた。小学生がマッチで火をつけることができなかった。同席した小学校の先生は驚いていない。アルコールランプやガスバーナーを用いる授業では、いつもガスライターを使っているとのことだった。擦(こす)って”摩擦”で着火するのは初めてで、そこら中でマッチに火がついたらびっくりして、「こわい!」と叫びながら火のついたマッチを投げている。(人類は本当にプロメテウスから火をもらった子孫だろうか?)後で回収したアンケートの回答に、「一番面白かったのはマッチで火をつけるところだった。」とあり、うれしさと寂しさのHalf&Halfな気持ちになった。

 ちなみにイベントで紹介した方位磁針の作り方は、加熱した真っ赤な鉄を地球の南北と平行においてそのまま冷やすことで、地球が大きな磁石であることを利用して、鉄を磁石にする。磁化した鉄の針を、発泡スチロールにボンドで固定しフロート(浮き船)として水に浮かべると水平であり摩擦が少なく、南北に平行になる。どちらが北かを印を付けておけば、方位磁針が完成する。(原理を簡単にいうと、鉄のキュリー温度を超えると、内部の磁気スピンが地磁気と同じ向きに揃い冷却され全体として磁石として振る舞う。簡単ではなく,短く言っただけでした。スイマセン。)

 途中いくつもの難しい”難所”がある。簡単にできないところが、実に面白い!!小型ボンベに取り付けれる強力ガスバーナーを用意すること。市販ヘアピン(鉄製)は、鉄の上に樹脂などでコーティングしてあり有毒ガスが発生するので、あらかじめ空焚きを屋外で行う。加熱中は熱が伝わってくるので、布製の軍手を使うのは危険。屋外で石の上にヘアピンを地球の南北に平行の向きに置いて真っ赤に熱すると良い。火傷・火事には注意を!!

 さて、大航海時代の幕開けの大発明であったはずの方位磁針は、GPSが一般的になった現代ではその偉大さがかなり失われている。スマホがあれば迷子にならないという”変な自信”をみんなが持っている。今時、磁石の存在を知っている小学生も、なんとなく”怪しい”。昔、幼稚園児の頃のクリップと磁石とヒモでつくった、”サカナ釣りゲーム”は今の園児も遊んでいるのだろうか?タブレットの色鮮やかなゲームに負けていないかな?磁石の身近な利用例として、スピーカー部品を教室の黒板に取り付けて(磁石なのでくっつく)「これなんでしょうか?」と聞いたら、誰も答えが返ってこない。「磁石を利用したスピーカ」ですと伝えると、小学生からスピーカの音は聞いたことはあるけど見たことありませんとの回答。

 なるほど、今時のテレビやスマホなど、スピーカが製品外観からでは見えない構造になっている。昔のように低音ウーハーが、波打つTVコマーシャルも見かけない。存在を感じさせない商品デザインや技術開発が進んで、子供たちからは「存在しない」スピーカーができてしまったらしい。オーッ、技術者の皆様、皆様の努力は思わぬ世界を見せることになりました。後継者不足、ここからきてませんか?と心の中で思わず呟いた。これを知って以来、我々工学系の教員は、”技術の見える化する人”・”伝える人(エバンジェリスト?)”にならなければと思い続け、自分の講義や公開講座などチャンスがあれば実物を見せるように心がけています。

 自分が子供の頃は、タバコを吸う大人が今よりたくさんいて、家庭でも燃料として薪を使ったり火鉢を使ったり、畑や田んぼでは普通にワラを燃やしたりしていて、街にはマッチがありふれていた。喫茶店の広告が書いてあるマッチが、どの家にもガスコンロの近くに置いてあった。子供がする遊びの一つに”火遊び”があり、時々幼い子供の火災による死亡が伝えれる痛ましいニュースもあった。

 時代が進み、技術が進み、マッチは街から姿をほとんど消した。そんなぼやきを、当時小学生の我が子に伝えたら、「お父さん、僕もマッチすった事ないよ。どうやって火つけるの?」と聞かれ、あらま”灯台下暗し”とはこのことかと思い、翌週キャンプ場に行って薪でご飯を炊きました。当然火をつけるのに使ったのは、マッチ。子供だけで火を使うのではなく、大人が一緒にいて、安全な火の使い方を教えてあげるのが、時代に適応した大人の非の打ち所のない教育だと思う。火をつけるのは、やはりマッチがマッチすると思う。 お後がよろしいようで。

追記:もし昼間、道に迷ったら、まずアナログ時計の12時の文字が太陽の方向になるような向きに立ちます。すると、短針と12時の文字のなす角度の半分(真ん中の角度)が真南の方向になります。(2020・05・23 説明追加)