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#23 サマにならない「様」

今から30年前のまだ大学院生だった頃,「先輩,漢字違いますよ.」と同じ研究室の学部4年生から言われ,「また,またーァッ.」と笑いながら最初は答えていた.専門雑誌に掲載された学術論文を自分たちで選んで毎週行う勉強会での一コマだった.専門用語とその意味を,英語と日本語を交えて説明していたとき,私が「様子」と黒板に書いたところ,後輩から,その「サマ」が違いますとご指摘いただいた.

 まさか,「様」を間違えるわけがないではないか.今までずっと年賀状で,○○様と宛名で書き続けたのだから.「もし間違っていたら私は地面に穴を掘って入りたい.」と後輩に告げ,私の「サマ」に関する解説モドキが始まった.漢字は,ヘンとツクリからできていて,基本部品の組み換えでできているんだと,誰でも知っていることをさもエラそうに語っていた.「正義って漢字を知ってる?」と私が伝えると,後輩君は「知ってますよ.」と阿呆を見る目でこちらを見ている.(ホラ見ろ、シメシメ.)と内心ほくそえみながら,「正義の義の上半分が様に使われているんだ!!」と私が説明すると,その場に居合わせた”ご一同”が(ポカァン)とした.(アレェっ?なんだこの雰囲気??)これを読んでいるみなさんは知ってますね,その理由を.「様」の右側は,(縦棒が上から下まで突き抜けているのが正解!)私は,この時まで知らなかった.教科書や新聞に印刷されている活字・フォントを”パっ”と見たら、つながっている様には見えないでジャン。私は毎年,年賀状で誤字を書き連(つら)ねていたのでした.(こんなお馬鹿さんな私ですけど,今年もよろしくね!)という年賀状を,友達の家族に見られていたかもしれない年賀状を,毎年送っていたとは,,,トホホ.

 「先輩,習字習ってないでしょう?」と,後輩から質問され,「何でわかるの??」と聞くと,いつも書き順見てて気づいてましたと言われました.「右と左の両方の漢字,最初に横棒から間違えて書いてますよね!」と言われ,(えっ,違うの?)とはもう言えず黙って次の”パンチ”への防御姿勢を取り待つ.「平仮名は漢字の略字なので,右の「み」と左の「ひ」見たらわかるじゃないですか」と言われ,何のこっちゃと思っていた.「右は「ノ」を最初に書き,左は「一」を最初に書きます.」と言われ,なるほどと思い感心しました(本当は教えてもらっていたはずなのに,その時には馬耳東風で記憶にゴザイマセン.)ちょうどその頃,新商品として世に出た手書き文字認識のシャープ「ザウルス」という”電子手帳”をお店の展示品で使ってみたことがありました.「そう言えば、何度ザウルスに「右」と書いてもうまく変換されなかったのは,”ザウルスめは書き順を使っておったザァンゥルスネェー.”」とトニー谷のように呟いたら(そろばんは持っていませんでしたが),ご一同に少しウケたので気持ちがほんの少し軽くなりました.小さな声で後輩に,「何でそうなのかなぁ?」と尋ねたら,冷たく「世の中のみんなが,そうやっているからですよ.」とそっけなく答えてくれ,(そうか,世の中は理屈じゃなく,慣習で動くんだな.)と”青二才”のようなことを大学院生にもなって改めて痛感.(学習の時の鉄則.理屈がないことが多いけれど,丸ごと覚えこむ必要も時にはある.人生と同じ.)

 そんな恥ずかしい経験を24歳になってからした自分が,黒板で学生のみなさんに教えるなんて”夢”にも思っていませんでした.時々授業中.私のような恥ずかしい体験をしないようにするためにと前置きをして,サマにならない「様」の漢字の話をすると,数名の学生が下を見ることがあります.きっと私と同じ考え方でここまで来た”若者”だと思い,あえて声をかけないことにしています.続けて,「右」と「左」の書き順の話をすると,やはり同じ学生が下を見ます.きっと私と同じ,穴があったらそこに入りこの時間をやり過ごしたいと思ているに違いないのでしょう.大丈夫,今日からは、サマになる「様」を書こうね.



(写真:長太の大楠、 引用元 ”三重フォトギャラリー” https://photo.mie-eetoko.com/photo/1169)