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#212 反響定位(エコー ロケーション)

テレビを見て面白かった話。

NHK BS番組『ヒューマニエンス40億年のたくらみ』

 『ヒューマニエンス』は、最近数少ない良質の番組の一つだと思います。

<番組内容>

 番組内では、いわゆるオカルト的な話題ではなく、脳科学の実験データに基づく事例が紹介されている中で、初めて聞く人間の秘められた能力(潜在能力)の紹介がありました。

聴力で見えないものを見る

 反響音で周囲の環境を知ることができる全盲の人の紹介には驚きました。1歳で視力を失った英国人の男性は、1歳半頃から自分で舌打ちで音を出し、その音の反射で目に見えない世界を理解するように訓練したというのです。全盲にも関わらず自転車に乗って移動したり、道路に停車した自動車の上に手をかざし自動車に触れずに車の輪郭を正確に手で示していました。驚きです。コウモリと同じように、目ではなく口と耳で周りの環境を生まれてすぐからの訓練で把握する能力を持っていました。

捨て去る「潜在能力」

 生後1年ほどから、人間の脳は大きさが増加するにも関わらず、その脳神経の繋がりであるシナプスが減少するというのは知りませんでした。よく3歳までが大切と耳にしたことがありますが、3歳頃までに多くの能力が”余分な”ものは削除されていくそうです。生まれてすぐには、どんな環境にも適応できるように、脳内には色々な神経回路網が少し多めに用意されているらしいのです。
 全盲でも反響音で自電車に乗れる方の潜在能力を発揮できた理由は、1歳頃に視力を失った後に、暗闇などでも反響音で自分の位置を知る(エコーロケーション)の能力を身につけたとの解釈でした。全ての人は生まれながらにこの能力を持っているらしいのですが、人類が進化の過程で言葉による仲間とのコミュニケーションを手に入れてから、この自分から音を出してその反響音で周りを知るという能力は、反響音を出すために舌打ちをし続けたりしなくてはならず仲間同士の会話に邪魔になってしまうとのことです。もう一つは、自分の声が反響してそれに気を使うと会話に集中できないという理由も推定されていました。人間の進化の過程で3歳頃までの成長過程で、ほとんどの場合使わずにその存在すら気づかずに捨て去るというのでした。しかし、大人になってからでも年単位に努力をすれば、脳内の神経ネットワークの他の部分がその機能に割り当てられて能力が使えるようになる可能性があると紹介されていました。

<感想>

「超適応」と「潜在能力」

 番組で紹介されていた他のいくつかの例は、脳神経回路が新たな接続を構築をするといういわゆる「超適応」だと思いました。これについては、NHKの別の番組で紹介された内容をnote記事に書きました。

 番組で紹介されていた「潜在能力」は、これとは少し違うと思われます。新生児までには用意されていた発現可能な能力で多くの人が使用せずに捨て去っていた秘められた能力のことと理解しました。

「進化」と「脳力」

 弱い存在としての人類の祖先が、群れ(集団生活)をすることで助け合いながら他の動物と生存競争しながら生き抜いてきた進化の歴史を感じました。子供の頃に多様な環境にも適応できるように、あらかじめ多めに脳内には潜在能力が用意されているけれど、より大切な能力を伸ばすために、幼少期にいくつかの能力を捨て去っていくことに巧みな生き残り戦略を感じました。しかし大人になってからも、その気にさえなれば、とても努力をすればその一部は脳が柔軟に変化して能力を開花できることに驚きました。「進化」やはりすごいと改めて思います。

新しい「反響定位」能力

 人間は自分の口からを発してその空間的反響で自分の空間位置を把握する能力を自ら捨て去った代わりに、自分の口から言葉を発してその心理的反響で自分の所属するグループ内位置を把握する能力を集団で獲得したと思います。個としては弱い存在であり続ける人類の賢い戦略です。
 新型コロナなどの感染症がこれからも続く可能性が高い今、改めて「反響定位」能力が重要だと考えます。そのためには、自分からグループへ心の声を発する力と、他人からのそれを受け取る力が必要です。これは人間が長い進化の過程で身につけた能力だから、ちょっとやそっとで無くさないと信じています。きっと、大丈夫!!