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掌編小説#3.「飛び猫」

 飛び猫という猫がいる。飛び猫は、一般的な猫よりも寿命がとても長く、その分だけ病気にかかりやすい。ある日、僕が飼っている飛び猫が病気にかかってしまった。長年一緒にいた勘からすると、もうこの猫はあまり長くないだろう、という気がしていた。
 とにかく僕は飛び猫をケージに入れて病院まで連れて行った。飛び猫を診た医者はとても深刻な顔つきで僕と向かい合って椅子に座っていた。
「もうこの飛び猫は長くないでしょうね。持って2年といったところでしょうか」
「2年……」
 僕は言った。
「お気の毒ですが、もし治療するとなると移植手術が必要になってきます。もし、手術を希望される場合でしたら飛び猫のドナーを待つ必要があります。たとえドナーが見つかったとしても、そう長くは生きられないでしょう」
 医者はそう言い終えると、僕の言葉を静かに待った。

 自宅に戻った僕は、ソファに座って丸くなって眠っている飛び猫を見つめていた。寿命が長いということで色々と苦労はあったけれど、それでも楽しい思い出の方が多かった。僕はそれらの出来事を思い返していた。しばらくすると、飛び猫があくびをしながら目を覚ました。それから飛び猫はいつものように、僕の前で遊び出した。足腰は弱ってヨタついてはいたけど、それでも僕には飛び猫がいつもより元気そうに見え、少しだけ泣いた。

(了)

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