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シンボルをプレゼント 『ポニイテイル』★53★

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「やめておきます」

体育館の丸くて大きな時計は10時少し過ぎを指していました。
この10時はお昼ではなく夜の10時です! 夜の10時を過ぎているのに学校にいるなんてことは初めてでした。そもそもあどは夜の9時より遅い時間に起きていることは、ほとんどありません。ユニの角をにぎりしめて執筆や漢字の勉強をした日曜日は、ほんとうに特別な日だったのです。遅い時間だと知ったからなのか、あどはまた少し眠くなってきました。


誕生日パーティーなんてもういい。こんな遅い時間だし、あと2時間だし。体育館の冷たくて気持ちがいいし。

「ユニは、今何才? ユニコーンは何才から大人になるの?」
「架空動物の場合、何才で大人ということはありません」

ユニの声はちっとも眠そうではありません。ユニコーンは夜に強いのでしょうか。
あとで夜ふかしのコツを聞かないと。
あどはちょっと、眠りすぎなのです。人間の6年生はふつう何時まで起きているのか知らないけれど、あどは夜ごはんを食べると、あっという間に寝てしまいます。起きるのも遅くて朝の7時なんて時間に起きたためしはほとんどありません。

「あどちゃん、聞いてます? 質問したのはあなたですよ!」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「つまりですね……」
「あ、カンタンに説明してね。ウチは難しい説明わからない自信がある」
「もう、話す前からそうやって決めつけないでください」

これまたプーコと同じ反応です。好きに遊べばいいのに遠慮するところ、無理をいえば遊びに付き合ってくれるところ、力比べだとか競争を嫌うところ、だらしないことをいうとしっかり注意してくれるところ。
あどはユニのやわらかい背中をまくらのようにして、もたれかかりました。金色のしっぽは近くでみるとさらに美しく、つやつやしていて遠くの国の秘密の糸のようです。

ユニの静かな息づかいが背中から伝わってきます。ユニの角を握ったときに来るすてきな「波」。その波の「波しぶき」みたいなものが、あどに気持ちよくふりかかってきます。あどは『ブラックフォールにたたずむ黒竜のような気分』でした。

高い天井のライトはまぶしいはずなのに、だんだん強い光が当たり前になって気にならなくなり、あどはゆっくり夢見心地になっていきました。半分眠っているような、ふわふわした気持ちであどはユニのことばを聞いたり返したりしていました。

「架空動物は、自分の体が大人になってきたと感じたら、子どもを探し始めるんです」
「子どもを探す?」
「自分が生まれた日と同じ誕生日の子どもをさがすんです」
「同じ誕生日の子なんて、いるの?」

本当は質問なんてしたくないし、ユニには悪いけどもう眠りたい気持ちでいっぱいだったのですが、ユニの波のせいであどの頭の、一番まともな部分がユニの不思議な話を聞きたがり、つられて耳や口が反応してしまうのでした。

「1年は365日しかありませんし、子どもはたくさんいます。ですから自分と同じ日に生まれた子は、この世界にはいっぱいいます。見つけるのは大変ではありません」
「そうなんだ。同じ誕生日だなんてスゴいことだと思ったけど、そうでもないのね。ウチなんてプーコと同じ日に生まれたっていうだけで、運命感じてたけど」
「でも誕生日が同じ子どもの中から、自分のシンボルをあげる子どもを決めるという次の段階が、大変というか、勇気が必要です」
「勇気?」
「架空動物は自分と同じ誕生日の子に、自分のシンボルをプレゼントします。ボクのような子どものユニコーンなら、角をぬいて子どもにあげます。狙った人間の子どもにシンボルをプレゼントできた瞬間、ボクたち架空動物は、一人前の大人になれるのです。プレゼントできるのは、その子が12才の誕生日をむかえたその日だけ」
「てことは今日か!」
「そうです。渡すのに失敗すると大変なことになります」
「大変なこと? じゃあ、早く図書館にもどってプーコに渡してきなよ!」
「いっしょに行きましょう」
「だからヤダって言ってるじゃん」
「あどちゃんにプレゼントを渡さなきゃいけない友だちがいるんです」
「プーコなんて友だちじゃない」
「プーコさんじゃなくて……わたしの友だちのペガ、ペガサスのペガです。あどちゃんを選んだペガです」

ユニの金色の角がキラリと光りました。


『ポニイテイル』★54★につづく

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