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ケライの角を使えば楽勝さ! 『ポニイテイル』★57★

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プーコの知っているペガサスはもっと体つきがしっかりしていて力強いのに、ペガはやせたポニイに翼をつけたような感じでした。背の低いプーコより小さいので、カッコイイというよりは、かわいらしいといったほうが断然ふさわしいのですが、傷つけるといけないので、これまた黙っていました。

「で、有名なペガがどうして無名のわたしの名前を知ってるの?」
「まあ、プーコはあどちゃんの親友だからね」

ペガはちょっとかっこつけた口調で答えました。

「え? あどちゃんのことまで知っているの?」

さっきまでポーズをつくっていたペガは、今度は問題集とノートをめずらしそうにペラペラとめくっています。ずいぶんと落ち着きのないポニイです。

「知ってるも何も、ユニにさんざん覚えさせられたから。会う前に渡す子どものこと、しっかり予習しておけってうるさいんだ。あどちゃんは空想と冒険が好きな女の子だろ。学校にはいつも遅くにやってきて、文章すらまともに書けなくて、プーコをいつも心配させてばかりいる子があどちゃん」

ひどい要約ですが、残念ながら全部真実なので、文句のつけどころがありません。そのまま辞書の「あど」の項目に載せたいくらいです。

「じゃあ、今キミがいった、ユニっていうのは誰?」
「ユニが誰かだって? ユニのことも知らないの? ボクはがんばって覚えたっていうのに、なんだかソンした気分だなぁ。ユニってのはボクのしんゆ……じゃなかった、ボクのケライさ。子どものユニコーンのユニだよ。頭からぬけちゃう細い角を気にしているヘンな子さ。どうせすぐに会えるよ。プーコの誕生日も、あどちゃんと同じあさってだろ。いいかプーコ、7月7日の予定は空けとくんだぞ。きっと朝一番で現れるから。アイツ、心配性だからね。ずっと前から、無事に角を渡せるかどうかばっかり気にしてるんだ。それよりなんで家で勉強しているんだい。勉強は学校でやるものだろ」

プーコは「王立生物学校」を受験するつもりでした。
王立生物学校は、国中の子どもの中から、もっとも頭のよい子を十人くらい選んで、生物学のエキスパートになるまで育て上げる学校です。エキスパートというのは、簡単にいうと専門家、わかりやすくいえば、生き物についてなんでも知っているスーパースターです。ペガが見ている問題集には、王立生物学校の過去のテストに出された問題が載っているのですが、プーコの力ではほとんど解くことができない問題ばかりでした。

「難しいんだよ。だから日曜日も勉強しなくちゃ入学試験に落ちちゃうんだ。でも、わたしはその学校にゼッタイに入りたいの」
「なんで?」
「なんでかというと……うーん……話せば長くなるから言わない」

ペガはプーコの頭の中で「フフフ」と笑いました。目の前のペガは表情を変えず、断りもせずに本だなを漁っています。
プーコは注意しないで、あどちゃんみたいに気ままなその行動をじっと観察しました。ペガサスは気むずかしい動物だと聞いています。こんなせまい部屋で怒らせたら、子どものペガサスとはいえ、大変でしょう。今のところ、このペガサスは、ご機嫌なようです。

「フフフ、でもプーコ。ヨユウだよ、そんなテスト」
「それがヨユウじゃないのよ。毎日勉強しているけど、ぜんぜんできる気がしないの。たくさん覚えなくちゃいけないことがあって。しかも受験の競争率はなんと100倍だよ! 100人にひとりしか合格できないのよ。あイタタタタ……」

受験のことを思うと胃が痛くなります。ペガはというと、あどちゃんみたいに気楽そうに、また「フフフ」と笑いました。

「フフフ、プーコはラッキーだね」
「どこが!」

昼食の後に胃薬を飲まなかったのが失敗でした。プーコは机の一番上のひきだしをあけ、胃薬の束からひとふくろ引きぬくと、用意していたぬるま湯で、ごくりと粉薬を飲みました。もうこの苦さは慣れっこです。

「こんなみじめな受験生の、どこがラッキーなのよ」
「へへへ。そんなテストなんて、ボクのケライの角を使えば楽勝さ!」
「ケライの角?」
「そう、ユニコーンの角。それを持つと、誰でもアゴがはずれるくらい頭がよくなるんだ。こんな問題なんてちょちょいのちょいで終わっちゃうよ」


『ポニイテイル』★58★につづく

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