見出し画像

ロマンチックな七夕なのに『ポニイテイル』★48★

前の章を読む

さて、場面を学校に戻しましょう。
学校のバルコニーは夢のような空間でした。

あどとプーコがいた教室は3階のいちばん見晴らしがよい位置にあって、その教室にあるバルコニーが空想するのにもってこい! 
遠くに一年中雪をかぶっている山なみがくっきりと見えます。
りっぱなお城にあるような、美しい白色のひろびろとしたルーフバルコニー。

教室のバルコニーがきれいなだけでなくがんじょうなつくりだったのは、クラスにはおとなしい動物だけでなく、元気な動物たちがたくさんいたからです。
たとえば「こぐま」や「ミニごりら」。この子たちは走り回ったりじゃれあったりして力を発散しないと落ちつかないのです。
そんなわけでバルコニーには前後左右にじゅうぶんすぎるくらいの広さがありました。

翼のある友達もいました。バルコニーは玄関や空港の役割も果たしていました。
鳥たちが使う滑走路や毎日遊んでもあきないジャンプ台。ちっちゃな動物のプールにもなる銀色の水飲みボウルもありました。鳥やリスたちに大人気の本だなみたいな巣箱。これはとても大きくて、背の低いあどとプーコは一番上の段を見物するのにデッキチェアにのぼらなくちゃダメでした。

そう!
なんといってもデッキチェアが最高なのです。

デッキチェアというのは、かんたんにいえば手足を思い切り伸ばして寝ころべる、ベッドのようなイスというか、イスのようなベッドで、デッキチェアの横にはサイドテーブルがあって、その丸いテーブルの上に、あどとプーコは置ききれないくらいのお菓子やジュース、お気に入りの物語や絵本をどっさりのせて、ごろりと寝ころび、休み時間や放課後、西の空をスクリーンにしてはてしなく空想をしたのです。

そう、プーコがあどを置いてブラウニー図書館に駆け出したあの日までは——

『7月7日水曜日』のことです。プーコが大図鑑を取りにブラウニー図書館に行っちゃった次の日。いつまで待ってもプーコは登校して来ません。

「わかってる、わかってる。自分の誕生日に休んでどうすんの!」

来るって断言していたくせに、プーコはまた学校を休みました。

誕生日に休むとか!

あどの学校の人間はぜんぶで3人でした。プーコとあどとハレー少年。
1年生のころは人間がたくさんいたけど、みんな『人間だけの学校』にどんどん転校して、6年生になると人間はたった3人になっていました。他の学年には人間はひとりもいません。あどたち3人以外の生徒はみんな動物でした。

ハレー少年は変わり者で、もともと小学校1年生のころから、よっぽどの用事がないと学校に来ることはありませんでした。だからあどはプーコをひとりぼっちにしないように、水たまりに夢中になったような日でも、学校には必ず行きました。プーコにしても、ひどいカゼをひいても学校を休んだりはしませんでした。それはつまり、なんていうか……友情?!

ウチらの誕生日なのに。
せっかく同時の、ロマンチックな七夕なのに。

朝から放課後まで教室に『人間ひとりぼっち』というのはありえないくらい寂しくて、あどはデッキチェアに寝ころび、暮れていく西の空を眺めていました。

「とつぜん、とつぜん、とつぜん……」

あどが物語を書くことを思いついたのも『とつぜん』でした。
ブラックフォールに行こうと思いたったのも『とつぜん』です。

プーコが『人間だけの学校に行きたい』と思ったのも『とつぜん』なのかもしれません。

丸いサイドテーブルの上に角を置きました。本物の、ユニコーンの角。
頭が一瞬にしてよくなる、すばらしい角です。

でも3日前にこの角を手にしてからというものの、あどは考えすぎてしまいます。せっかくの角だし親友にプレゼントする前にたくさんの物語を書いてみようと思っても『ホコリ姫とチリ星』のような思いっきりヘンな話が書けません。『明るくてくだらないことだけがあふれている話』が大好きなのに、ちょっとさみしい場面がかならず出てきてしまうのでボツになってしまいます。

7月ののんびりとした太陽も、ついに西のかなたに消えてしまいました。
動物たちはとっくに下校してしまい、真っ暗の広いバルコニーにはあど一人です。

「プーコ……」

テーブルにおいたユニコーンの角が、非常灯みたいにしずかに冷たく光っています。
その光をまぶたの向こうにしたまま、あどは目を閉じました。


ポニイテイル★49★へつづく

読後📗あなたにプチミラクルが起きますように🙏 定額マガジンの読者も募集中です🚩