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「僕の名前は、」

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旅人たちが、あるときは街に、またあるときは平原に忘れていった話。不定期更新。
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歩いた昼の夢

歩いた昼の夢

 たぶん、いろいろ理由はあったはずだ。このままだとこごえてしまうとか、放っておけないとか、そういう。でも最たる理由は、なつかしい匂いがしたからだ。
 だから、うずくまっていたその子の手を引いたのだと思う。

 その子は、ほこり除け用としか思えない薄っぺらい布をまとっているだけの、みすぼらしい格好をしていた。肌着を何枚も着こんでいる僕でさえ震えているほどの寒さなのに、その子はそんな素ぶりを少しも見せ

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行く手は明日へ

行く手は明日へ

 星がまたひとつ流れた。
 おそらく、あれが今晩最後の星だろう。空は、もう白み始めている。
 絶やさないようにしていた焚き火も、薪はあらかた燃えつきて炭になり、煙が立ち昇るばかりとなった。ひえびえとしていた空気はやわらぎ、かと思えば体が湿ってくる。

 彼女は、僕の膝に頭を乗せたまま眠っている。
 夢の中にまで寒さが沁みているらしく、眉をひそめると、腰までずり落ちていた毛布を、自分で肩まで引っ張り

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