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8/21

5:13起床。

天気は雨。
カーテンレールにかけているハンガーのせいで、外がよく見えない。
もしくは、僕が外なんか見ようとしていないせいかもしれない。

「どうしようもないこと」は、どうにもしようがないから、まいったね。

ここは、どこだったっけ。……ああそうだ、うちだよ。『うち』って、どっち? どっちって……どっちとかあるの? 僕の『うち』っていうのは……あれ? うん、『うち』っていうのはね、あなたが1人でいるところだよ。あ、間違えた。独りだったね。あなたは『うち』で独りで過ごすのよ。一生、一生……。

……。
……。

……いけない。これは、呪いだ。ううん、呪いなんてものは、本当はかけられていない。だって、母はそれを呪いだと思っていないんだから。三つ子の魂百までとはいうけれど、幼いころにかけられた呪いは、なかなかとけるものではないらしい。あ、また呪いっていってしまった。きっと、これを呪いにしているのは僕だ。


「あなたは1人で生きていくことになる」
「いざとなれば、うち(実家)にひきこもるしかないわね」


そんなことをいってのけた母は、いったことすら覚えていないだろう。


「僕のことを『みっともない』とか『恥ずかしい』とかいうの、もう止めてほしいんだ」


勇気をふりしぼって懇願したときも、そんなことをいった覚えは無いなんていわれたんだ。お前は何をいっているんだ。本当に、そんな顔をしていた。はは……。『そんなこと』を気にしているのは僕だけだって、そのときようやく気が付いた。僕は、『そんなこと』に十何年も縛りつけられていたというのに。だから、呪いっていうのは『そんなこと』で、『そんなこと』っていうからには、それは大したことではなくて、『そんなこと』を呪いに変化させてしまったのは僕だってこと。

呪いっていうのは、大抵呪いをかけた人にしかとけない。だから、この呪いをとくことが出来るのもきっと僕だ。そうだ。だから、恐れることは何も無いんだよ……。という人は、大概何かを恐れている。ねえ、僕。一体、何を恐れているの?だって僕は、もう独りじゃないんだよ? 僕には、大切な人がいるじゃないか。大切な人を大切にして、大切にしてもらっているじゃないか。だから、恐れることは何も無いんだよ……。ああ、そうだね。そもそも、「あーたーらしーいーあーさがきたー」というのに、なして僕はこんなことを考えなくちゃならんのか。ぷんぷん。

……うう。たぶん、今日は面接があるからだな。そうだ、そういうことにしておこう。それに、腹も減った。むつかしいことを考えるのは、腹が満たされてからにしよう。

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